オルタナティブR&Bに対する日本からの回答。若干19歳のアーティスト・Salaを形作る美しい破片たち。

作品を支える豪華なクリエイター陣

先日投稿したウィークエンド(The Weeknd)の特集記事で取り上げたように、今R&B界では「ウィークエンド以降」ともいえるオルタナティブR&Bがトレンドだ。パーソナルなリリックと内省的なサウンド。
今回取り上げるSala(サラ)の1stEP『Flagments』は、その流れに対して19歳の感性で見事な回答を示してくれた。

(1)「Together」は、アーティストでありプロデューサーのShin Skiuraを迎えたナンバー。シティポップのようなキラキラしたサウンドでR&Bの今のトレンドをしっかりとらえた好曲。
(2)「Bossa」は、KREVA作品にバックDJで参加するなど数多くの実績を残す熊井五郎プロデュース。イントロから流れるボサノヴァ調のピアノは日本のJAZZポップ界の新星・showmoreの井上惇志(いのうえ・あつし)によるもので、豪華なサウンドチームを従えた香り立つコーヒーAnthemだ。
Salaと同じく新進気鋭のシンガー・FLEUR(フルール)が掛け合う様は、2人の涼やかな歌声と相まって非常に気持ちのいい楽曲だが、「生きるってことはそう簡単じゃない/僕が見てたTOKYOはもういない」と、その若さとは裏腹に歌詞は少しビターで内省的な仕上がりとなっている。

現代を生きる誰もが抱える諦念や孤独を絶妙に捉えた世界観

上記のように豪華な客演陣に支えられながらも、本作の魅力を形作る最大の要素。それはオルタナティブR&Bを語るうえでも外すことの出来ない要素、リリックと世界観である。
「また暗闇に溶けてなくなりたくて」「ただ辛いよhelp me please」といったどうしようもない感情を露わにしたかと思うと、「生きるに伴う辛さ悲しみはdesteny」「イヤホン越しでしか話せないけど/ところであなたはそこにいますか」「きっと幸せなんだよ今」といった諦めに似た感情や孤独、自分に言い聞かせるような表現もまた同時に歌われている。しかし、こういった表現や世界観がすべてをわかりきったようなシニカルで冷笑的になることなく、聴くものの心を動かすのは、それ自体も人生を構成する一つの要素として捉え、希望を見出しているからだろう。「ライトをつけたまま/いや少しだけ暗く/静寂が響く夜を嚙み締めるように過ごさないと」「日常に埋もれた幸せを掘り起こそうとして/少年の手のひらは泥で汚れてて」と歌うように、その目にははっきりとその先にある希望や幸せが見えているのではないだろうか。そしてその対比表現として日常に起こりがちなネガティブな感情を歌詞にすることで、聴く者の心に寄り添い、その先に導こうとしてくれている。
「TikTokに流れてくる動画は/いいよ今日だけは見ないで」「インスタを見て得る孤独」といったSNSがリアルに登場してくるのもまた、その証左と言える。

(2)「Bossa」爽やかな楽曲でありながら掛け合う二人が一度も視線を交わさないMVは、歌詞の世界観を見事にとらえている。


突如として名乗りを上げたSalaという新しい才能。
全6曲という私小説が集まった短編集のような1作『Fragments』は、もちろん今までシングルとして出してきた楽曲を集めたものという意味合いもあるのかもしれないが、各楽曲(=Piece)が集まってSalaが出来上がるのではなく、各楽曲は既に存在するSalaという一人のアーティストの等身大の破片(=Fragment)という強い意思表示であると感じる。

まだ19歳の若き才能はこれからどんな経験をし、それを自らの音楽に吸収し、我々に届けてくれるのか。Salaが描き出す音楽の長編小説を心待ちにしたい。

プロフィール

R&BやHIPHOPをベースにしたスタイル、人々の心に寄り添う透明感のある歌声で注目を集めるシンガー。小学5年の時にアリアナ・グランデ(Ariana Grande)のアルバムに出会い、MISIA、Superflyなどへの憧れもあり、音楽に興味を持ち始める。高校1年の時に兄でミュージシャンのRyoma Takamuraのデモ楽曲に歌を乗せるようになり、2021年1月に1stシングル「Loved More」をリリース。以降、FLEUR・熊井吾郎とのコラボ楽曲「Bossa」、Shin Sakiuraをサウンドプロデュースに迎えた「Together」の発表を経て、同年11月にEP『Fragments』をリリース。

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