『Tako Tsubo』という不思議な日本語が題された傑作
フランス・パリの6人組シンセポップ・バンド、ランペラトリス(L’Impératrice)の2ndアルバム『Tako Tsubo』は、アシッドジャズやファンク、ハウスの影響を受けた軽めのエレクトリック・バンドのサウンドに、フレンチポップの流れを汲む女性ヴォーカルが溶け込んだ極上の作品だ。
この不思議なアルバムタイトルは彼らによると“激しい感情によって爆発寸前まで変形した心臓”という意味の日本語とのことだが、どうやら、突然何の前触れもなしに胸痛や息切れなどの症状が出現する心臓の病気「たこつぼ型心筋症」を省略してしまったもののようだ。アルバムの収録曲には「血腫」「潜水艦」「狂気」「少女への恐怖」「綱渡り」「たくさんの愛の喪失」といったタイトルがつけられ、全体でロマンティックなきっかけで生じる動悸や息切れを“たこつぼ型心筋症”と重ね合わせている(ロマンティック度合いで言えば、英語の“ブロークンハート症候群”の方が合っていそうな気がしないでもない)。
タイトなドラムスに休符を重視したグルーヴィーなベースライン。どこまでもセンスの良い音色で包み込むシンセ、ファンキーに刻むギター。少女性を感じさせるフロール・ベンギーギ(Flore Benguigui)のヴォーカルも甘酸っぱく心地いい。
アルバムはどこから聴いても音楽的に美味しく完璧で、ハートブレイキングだ。
L’Impératrice プロフィール
L’Impératriceは鍵盤奏者のシャルル・ドゥ・ボワセガン(Charles de Boisseguin)を中心に2012年に結成。彼は結成当時音楽評論家として様々な音楽雑誌に寄稿をしていたが、まず各楽器パートのメンバーを集め、最後にヴォーカリストのフロール・ベンギーギに声をかけた。
バンド名は“皇后”の意味で、女性らしい優雅さや一種の物語性、ファンタジー性を想起させる。
2018年に最初のフルレンスアルバム『Matahari』をリリース。シティポップのような馴染みやすさのあるアーティスト性はフランス語圏を中心にヒットした。
音楽的な影響源は70〜80年代にかけてファンクからディスコ、そして最初のエレクトロニックミュージックまで、ダンスミュージックで行われたすべてのこと。シャルルによると、このユニットの音楽を一言で表すならばcosmic-pop-slash-space-discoだという。
L’Impératrice :
Charles de Boisseguin – keyboards
Hagni Gwon – keyboards
David Gaugué – bass
Achille Trocellier – guitar
Tom Daveau – drums
Flore Benguigui – vocal