Music Magazineが満点評価をつけた衝撃的なデビュー作。
R&Bというジャンルは実に面白い。それは人によって様々な解釈が存在するからだ。クラブでかかるようなバキバキのビートでもボーカルメインであればR&Bと呼んだりもするし、ポップスであってもダンス要素があればR&Bと呼ばれたりすることもある。そうかと思えばオーセンティックに歌い上げられるソウルもまた、今ではR&Bと呼ばれたりするし、ファンキーなギターサウンドも時にR&Bだ。
ここ日本でも、過去の歌謡曲がR&Bとして評価されたかと思うと、久保田利伸のような圧倒的な歌唱力を持ったザ・R&Bシンガーや、EXILEのようなダンスグループの楽曲もR&Bと呼ばれたりと、とにかく多種多様なのが、このR&Bというサウンドであると自分は解釈している。
そんな日本のR&Bの中で、charaやACOといったR&Bのテイストをうまく取り入れたSSWの先駆者たちの系譜として、今最前線にいるのがこのKiki Vivi Lilyだ。甘い歌声と等身大の歌詞、アーティスティックなトラック。これが一つでも欠けたら(例えば圧倒的な歌唱力を持った超絶ボーカルだったり、クラブサウンドを意識したバキバキのトラックだったりしたら)、この作品はまったく違う評価だったに違いない。全てが一つの要素として完成された作品であり、全てのバランスが程よく調和された奇跡のアルバム。それがこのデビュー作の『vivid』である。
Kiki Vivi Lilyという一人の女性目線で語られる一つのストーリー
音楽的な素晴らしさは一聴したらわかると思うが、本作の面白いところは、一つのアルバムがまさに一つの作品のように描かれている事だ。アルバムを通して描かれる1人の女性のストーリー。元々、本作より以前のデビューep「Lovin’You」などで既に聴くことの出来る楽曲もあるため、たまたまなのかもしれないが、このアルバム制作を当時から意図していたのではないかと思うほど、それは素晴らしい流れで構成されている。(実際にアルバムに収録されている過去の楽曲は、本アルバム用にかなりサウンドを変えている)
デビュー作である本作の1曲目(1)「so much」は”ねえ、DJきいて/こんな歌をたまにはかけてみるのはどう?”といったヴァースから始まるKiki Vivi Lilyの名刺がわりのイントロソング。”いろんなMusic/甘いLyricに絡めて紡ぐ””HitでGrooveなMusicを”と、ちゃっかり自らの音楽性も歌詞に盛り込んでいるところが可愛らしい。シティポップの色濃い(2)「Brand New」(3)「why」はマイケルジャクソン(Michael Jackson)の「P.Y.T.」やプリンス(Prince)の「I Wanna Be Your Lover」のような80’sファンクの風通しの良さを感じることが出来る。
と、ここまでかなり元気な感じで来た作品が(4)「80denier」でガラッと雰囲気を変える。
“80デニールの恋をしていたいの”とここで本作中初めて歌われる”恋”という単語。80デニール(主にタイツやストッキングに使われる厚さの単位)という女性特有の言い回しで歌われるのは、80デニール=比較的厚め=本心を隠した淡い片想いではないだろうか。「デニールの意味さえわかってないくせに」という最後の歌詞からは、主人公の恋心に気づかない男性の姿が透けて見えるようだ。
Perfume的な世界観で歌われる(5)「AM0:52」は本作以降もKiki Vivi Lilyのサウンドに深く関わる盟友Sweet Williamのリミックス。ついに恋人同士となった主人公の浮かれる姿が深夜の電話の前を舞台に描かれる。
しかし、またしても曲調は一転。恋に溺れ自分を見失う恐怖を描くような(6)「Waste No Time」では辛うじてまだ恋人関係でありそうだが、(7)「カフェイン中毒」では”熱いブラックコーヒーはあなた/苦くたって抜け出せない/毎朝飲みたくなるのはなぜ/ぬるくなった頃に気づいたってもう遅い”と、未練はありながらも既に過去の話になっていることに、ミニマルに抑えられたサウンドも相まって聴き手は感情移入せざるを得ない。
失恋をした主人公はこのままどうなってしまうのか?
聴き手の気になる問いに答えたのが、(8)「Copenhagen」。なんと彼女は旅に出ていた。”少しのリグレット”とまだ少しは後を引きながらも、旅を楽しむ姿が軽快なサウンドとともに繰り広げられていく。(9)「K.V.L.F」はタイトル通りのファンクナンバー。ここまで来ると完全に振り切った主人公の姿が逆に潔い。しかし、(10)「Asian Resort」で南国にまで旅をしてきた主人公は、ここで飛行機のチケットを燃やす。”わたし何をしてんだろう””ホテルの部屋に書かれた「ようこそ楽園へ」/この地がそうならどうして切ないの”と、やはり振り切れてはいなかったのだ。
そしてラスト(11)「At last」。最後に主人公がたどり着いた景色とは…。
SNSの台頭により共感の時代と言われる現代において、Kiki Vivi Lilyの持つサウンド、歌声、歌詞とその世界観は、まさに今の時代求められていた音楽なのではないだろうか。
このお話の続きは是非、その耳で確かめて欲しい。
プロフィール
福岡県出身。
2012年「ゆり花」として活動を開始。
2015年、ゆり花としての活動を停止しkiki vivi lilyとして活動を再開。
ヒップホップ、クラブミュージック、R&Bを取り入れた音楽と、スウィートで魅惑的な歌声と類稀なるメロディーセンスで彩度の高いポップネス・ソウルを奏でる注目のシンガーソングライター。軽やかにジャンルを横断しながら様々なアーティストとコラボレーションを行うスタイルは、シーンの中でも特異な存在感を放つ。
2019年6月に1st Full Album「vivid」を発表、音楽専門誌「MUSIC MAGAZINE」のレビューでは10点満点を獲得するなど話題を呼び、玄人のみならず幅広い音楽愛好家を魅了。
同年12月にビートメーカーSUKISHAとの共作「Over The Rainbow」を発表、Apple Music R&Bチャートでは2年に渡りランクインを記録し続けるほか、スペインでの海外初公演を行うなど、グローバルに活躍の場を広げつつある。
2020年12月に1年半ぶりとなるデジタル限定ミニアルバム「Good Luck Charm」をリリース。
収録曲の「ひめごと」が三井アウトレットパーク「SURPRISE SALE」のCMソングに抜擢され、ロングセールスを記録。また、nobodyknows+との「ココロオドル」のコラボレーションも大きな話題となった。
2021年10月に待望の2nd Full Album「Tasty」をリリース。