ベイルート出身のアルメニア系ピアニスト、ゼラ・マルゴシアン2nd
アルメニアにルーツを持ち、レバノンのベイルートで生まれ、現在はオーストラリアのシドニーを拠点に活動するピアニスト/作曲家のゼラ・マルゴシアン(Zela Margossian)が、自身のクインテットの2作目となる『The Road』をリリースした。レーベルはRopeadope Records。
伝統的なアルメニア音楽の影響を受けた優美で異国情緒あふれるジャズだ。
彼女の人生を物語るかのようなタイトルが付けられた(1)「Refuge」では、美しく響くピアノの分散和音、ハッとするようなスチュアート・ヴァンデグラーフ(Stuart Vandegraaff)のサックスに導かれ5拍子のリズム、続いてテーマが提示されると、やがていつの間にか9拍子のリズムでそれぞれの思索的なソロが演奏される。トルコ生まれのパーカッション奏者アデム・ユルマズ(Adem Yilmaz)や、深みのある音色のアルコも多用するダブルベースのジャックス・エメリー(Jacques Emery)の存在もこのクインテットに特徴的な色を加える。
アルメニア音楽の影響を受けたジャズというと、昨今は真っ先にティグラン・ハマシアン(Tigran Hamasyan)の音楽が想起されると思うが、今作でのゼラ・マルゴシアンの作曲やピアノソロでもしっかりとその魅力的な要素が凝縮されている。複雑でありながらそれを感じさせない美しい楽曲構成、精緻でいながら時に大胆なソロ、それぞれが多様な文化的バックグラウンドを持ちながらも互いを受け入れあい、そして統制の取れた完璧なアンサンブル。20代に入るまでドビュッシー、ショスタコーヴィチ、ハチャトゥリアン、ババジャニアンなど膨大なクラシックの作品を演奏してきた経験も無意識のうちに彼女の音楽の強みとなって活かされている。
豊かな人生経験、音楽的経験に裏打ちされた素晴らしい音楽であることは間違いない。
Zela Margossian プロフィール
ゼラ・マルゴシアンは1980年生まれ。当時のレバノンというと内戦が断続的に発生していた時代で、この不安定な政治的情勢の中で幼少期を過ごしたことは少なからず後の彼女の音楽表現に影響を与えている。
8歳の頃から西洋クラシックのピアノを学び始め、ベイルートのハイガイジアン大学卒業後にアルメニアの首都エレバンのコミタス州立音楽院に移り、そこでクラシックピアノの修士号を取得した。
彼女はアルメニアに住んだ5年間の間に地元のジャズクラブに通い、そこで演奏されるアルメニアの伝統音楽を織り込んだジャズに魅了されることになる。その後シドニーに移ることを決断した彼女はクラシックからジャズへの転向も決意。シドニーで自身のクインテットを結成し、2018年のデビュー作『Transition』はオーストラリアの音楽賞「ARIA Music Awards」でベスト・ワールド・ミュージック・アワードにノミネートされるなど絶賛された。
Zela Margossian Quintet :
Zela Margossian – piano
Stuart Vandegraaff – saxophones
Jacques Emery – double Bass
Adem Yilmaz – percussions
Alexander Inman-Hislop – drums