デビューから22年。大人になったCDが描くUKダンスミュージックの未来。

音楽シーンに衝撃を与えた2STEPの出現とクレイグ・デイヴィッド

R&Bの00年代回帰が止まらない。
前回記事でも取り上げたジョン・レジェンド(John Legend)に続き、UK発「King of 2STEP」ことクレイグ・デイヴィッド(Craig David)の新作が発表されたからだ。

2STEPとは90年代後半にヨーロッパで流行したダンスミュージックのジャンルの一つ。
特徴としては、キックドラムが四つ打ちではなく、変則的に強調されている(特に一拍目と三拍目が多い)トラックで、クレイグ・デイヴィッドのデビューにも関わりのあるアートフル・ドジャー(Artful Dodger)を始め、ソー・ソリッド・クルー(So Solid Crew)など、UKのアーティストに多いこの音楽性だが、日本でもm-floが2STEPをいち早く取り入れた楽曲「Come Again」がヒットを記録するなど、馴染みのあるダンスミュージックと言えるだろう。

So Solid Crewの「21 SECONDS」はダンスミュージックとしてだけではなく、HipHop文脈としても非常に重要でクールな楽曲。

1999年、上述のアートフル・ドジャーと共同制作した楽曲「Re-Rewind (The Crowd Say Bo Selecta)」、そして未だR&B史に残る楽曲「Fill Me In」を発表し、鮮烈なデビューを飾ったクレイグ・デイヴィッド(以下CD)。デビュー作『Born To Do It』、続く2nd『Slicker Than Your Average』は自身のアイデンティティである2stepを主体としたクラブミュージック色強めの作品だったが、3rd『The Story Goes…』で打ち出した爽やかなR&B路線が大ヒット。楽曲「All The Way」のヒットも相まって、CD=爽やかなR&Bシンガーというイメージも多いのではないだろうか。
事実、再びダンスナンバーに回帰した2007年作『Trust Me』は、(あくまで前作との比較になるが)商業的に振るわず、CDは長期休業へと入ることになるが、このことからもやはりCDの根底にあるのはダンスミュージックなのである。

約10年の時を経て、復帰したCDは16年・18年と立て続けにダンスアルバムを発表するが、EDM全盛の流れもあり、全体的にメインストリーム色の強い各作品は同じダンスアルバムでありながらも、CDの強みである2STEPの純度の薄さは否めなかった。(16年作収録の「16」で自身の「Fill Me In」のサンプリングしているが、あくまで上述曲を下敷きにしたEDMであり、正直原曲の良さをまったくもって無視した内容であったと言っていい)

すべてはここから始まった。今でも語り継がれる永遠のクラシックであり、CDの代表作「Fill Me In」。

原点回帰のダンスミュージックが詰まった最新作。

デビューから22年、そして2022年に発表という事で題された本作『22』は、デビュー当時の洗練されたダンスミュージックがR&Bのフォーマットで見事に昇華された渾身の一枚と言っていい。「Fill Me In」を思わせる2STEPサウンド、(1)「Teardrops」から始まり、(3)「Who You Are」では「Rewind」を思わせる懐かしいスピンエフェクトを効果的に配するなど、往年のファンをニヤリとさせたかと思えば、(4)「G Love」では大人っぽいトラックでR&Bファンにもしっかりとアピール。同様に(9)「What More Could I Ask For?」もデビュー作収録の「Time to Party」を思わせる懐かしいR&Bナンバーだ。
ただ、やはりCDの魅力はダンスナンバーだろう。その名の通り、誰もが踊りたくなるような教科書通りのハウスナンバー(7)「Back to Basics」から(8)「My Hert’s Been Waiting for You」の流れは、CDがフロアに帰ってきたことを高らかに宣言するようでもある。後半はスローR&Bが多く、多少失速感は否めないが、それでもやはり本作が歓迎されるべき内容であることは疑いの余地がない。ちなみにデラックス盤収録の「Best of Me」は、お馴染みケリー・ローランド(Kelly Rolland)のあの音がサンプリングされていたりと、細かく聴いていくと結構面白く、全体としてまとまっているというより個々の楽曲が粒立っている、そんな印象だ。
また、参加アーティストも本作を彩る魅力的な要素の一つ。nippaIsongGRACEYWretch32といったUK出身の才気溢れる若手アーティストが多数フックアップされており、次世代のUKクラブシーンを占うようなイントロダクションアルバムとして、UK音楽ファンであれば是非一聴していただきたい。

UKの若手ラッパー・nippaを迎えたクールなR&B (4)「G Love」

プロフィール

1981年5月5日生まれ、英・サウサンプトン出身のシンガー・ソングライター。
2000年のシングル「フィル・ミー・イン」が全英1位、デビュー・アルバム『ボーン・トゥ・ドゥ・イット』が全米含む世界でヒットしてブレイク。“キング・オブ・2ステップ”の異名をとる。その後、スティングとの「ライズ&フォール」や「ホット・スタッフ」などがヒット。2010年以降は久しくリリースはなかったが、UKガラージの再評価の流れに乗り復活。2016年の『フォロイング・マイ・イントゥイション』が16年ぶりに全英1位に輝く。2018年に『タイム・イズ・ナウ』を発表後、2022年『22』を発表。(Tower Record アーティストプロフィールより)

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