デリア・フィッシャーとヒカルド・バセラール、MPBを象徴するジルベルト・ジルへの再訪

Delia Fischer & Ricardo Bacelar - Andar Com Gil

デリア・フィッシャー&ヒカルド・バセラールによるジルベルト・ジル曲集

ここ半世紀のブラジル・ポピュラー音楽(MPB)のひとつのアイコンであるジルベルト・ジル(Gilberto Gil)の名曲に、彼の次の世代であり現在のMPBのシーンでは既に重鎮となった二人の音楽家、デリア・フィッシャー(Delia Fischer)ヒカルド・バセラール(Ricardo Bacelar)が挑んだ作品が『Andar Com Gil』だ。これは単なる人気の音楽のカヴァーではなく、ブラジルの豊かな音楽文化への再訪とも言えるだろう。

アルバムではジルベルト・ジルの作品のなかから、特に精神・心について物語る楽曲を選びデリア・フィッシャーのピアノと声、ヒカルド・バセラールの鍵盤その他マルチな器楽と声に焦点を当てカヴァーしている。特筆すべきは(6)「Prece」へのジルベルト・ジル本人の参加で、この曲にはさらにブラジルを代表するチェリストであるジャキス・モレレンバウムも参加している。

ジルベルト・ジルとジャキス・モレレンバウムをフィーチュアした(6)「Prece」

ジルベルト・ジルの代表曲のひとつである(1)「Oriente」では大胆にシタールなどインドの楽器をフィーチュアし、東洋感を演出。歌詞に“Japão(日本)”も出てくる中でのシタールのオブリガートにはなんとなく違和感を覚えないでもないが、その違和感を含め面白いアレンジとなっている。

(1)「Oriente」、(8)「Aqui e agora」、(9)「A Paz」などの楽曲では、ヴォーカルとピアノを同時にライヴ録音することで楽曲の持つエモーションや親密な雰囲気を表現。主にピアノとヴォーカルを担当するデリア・フィッシャーに、鍵盤を始め様々な楽器に知見の深いヒカルド・バセラールが彩りの豊かなサウンド空間を演出することで、ジルベルト・ジルの楽曲により深みを与えることに成功している。

Delia Fischer & Ricardo Bacelar 略歴

デリア・フィッシャー(Delia Fischer)は1964年リオデジャネイロ生まれ。
1988年にクラウヂオ・ダウエルスベルグ(Claudio Dauelsberg)とのピアノデュオ「Duo Fenix」を結成し、ビレリ・ラグレーンをゲストに迎え話題となった『Karai-Etê』など何枚かのアルバムをリリースした後、1999年にエグベルト・ジスモンチ主宰のレーベル、カルモ(Carmo)から初のソロ作『Antonio』をリリース。その後はクラシックを礎としたジャズピアニストとして築き上げてきた自身のキャリアに魅力的な“歌手”という肩書きも付け加え、活動を続けてきた。2011年には師ともいえるエグベルト・ジスモンチ曲集『Saudacoes Egberto』をリリースしている。

ヒカルド・バセラール(Ricardo Bacelar)は1967年ブラジル・セアラ州生まれのピアニスト/作曲家/プロデューサー。ブラジルの80〜90年代を代表するリオ発のロックバンド、ハノイ・ハノイ(Hanói-Hanói)の鍵盤奏者として長年活躍し、2001年にクラシック音楽の影響も色濃く現れた初のソロアルバム『In Natura』を発表。これまでにソロで5枚ほどのアルバムをリリースしている。
彼は最新技術で設計されたスタジオを作り、新たに「Jasmin Music」レーベルを創立。2021年に同レーベルより若手ギタリストのカイナン・カヴァルカンチ(Cainã Cavalcante)との初の共作『Paracosmo』をリリースしている。

Delia Fischer – vocal, piano, keyboards, chorus, handclap
Ricardo Bacelar – vocal,piano, keyboards, organ, sitar, sarod, sarangi, harmonium, flute, percussion, dulcimer, bass, drums

Guests :
Gilberto Gil – vocal (6)
Jaques Morelenbaum – cello (6)

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