日本屈指のビートメイカーが描く幸せの形
EVISBEATS(エビスビーツ)の最新作『That’s Life』が5月24日にCD / CASSETTE / LP の3フォーマットでフィジカル化される。
思い返せば2002年、韻踏合組合(いんふみあいくみあい)でラッパー・AKIRAとして活動していたEVISBEATS。
メンバー全員が歯に衣着せぬリリックとスキルフルなラップを武器にアンダーグラウンドHipHopを牽引してきた韻踏合組合の中でもEVISBEATSが所属していたNotable MCは特に評価が高かったと記憶している。
2004年に脱退後、ソロキャリアをスタートさせたEVISBEATS において、本作は過去作を振り返ってもこれ以上ないくらいの優しさに満ち溢れたメッセージ性の高い作品に仕上がっている。
メッセージ性と言っても、何か印象的なライムやリリックが存在するわけではない。
何故ならば、本作を構成する楽曲のほぼ全てがインスト曲だからだ。
本サイトでも何度も取り上げているJ・ラモッタ・スズメをゲストに迎えるなど、盟友・Nagipanと共作した前作『PEPE』も非常にクオリティの高い作品であったし、2012年のMix作品『Sketchbook』も(一部ボーカル曲はあるものの)インスト作品という観点では素晴らしいものであった。だがしかし本作ではそれらのクオリティに加え、タイトル『That’s Life』に込められた諦念にも似た明確なメッセージによって、作品としてより強固なものになったと言える。
懐かしくも新しい、ビートの妙で紡ぐEVISBEATSサウンド
(1)「Amazarashi」から(6)「Luminous」まで続くインストナンバーで広がるのはどこまでも心地よく解放的な音世界だ。そのアーバンなビートの背後に流れる虫の音や風の音といったサブアーバンな環境音は徐々に、だが確実に我々を本作の世界感へと引きずりこんでくれる。
そんなEVISBEATSサウンドを受け入れる態勢が整ったタイミングで差し込まれるのが、本作唯一のボーカル曲、ラッパーの田我流(でんがりゅう)を迎えた(7)「Shooting Star」。
EVISBEATSが日本のチルアウトヒップホップの旗手として注目を浴びた2012年の代表曲「ゆれる」からの共に歩む田我流との安定の掛け合いは、本作だけでなくEVISBEATS作品に欠かすことの出来ないスパイスと言えるだろう。
ここで初めて示されるタイトル通りの直接的なメッセージ。
“人生はShooting Star”と歌われる刹那的な世界観は、本作の後半に向けてより加速していくこととなる。
その最たるものが(17)「Akirame」だ。
故・水木しげるのスタジオインタビュー音源を大胆にサンプリングした本曲で語られる
“現世は地獄”
“諦めて働く”
“幸せに生きるにはもっと工夫をしないといけない”
“今の人は幸福機能を失くしている”
といった言葉の数々は、本作でもっともEVISBEATSが伝えたかったことなのではないだろうか。
実際にこの後、本作では同曲の最後に黒澤明の映画『どん底』で歌われる陽気な「江戸バカ囃」や、その名の通り山形の新庄節をサンプリングした(19)「Shinjo-Bushi」など、地獄と称され幸福機能を失った現世とはかけ離れた古き良き日本の音像が広がっていく。
本稿の冒頭で触れたEBISBEATSの諦念にも似たメッセージという一文。
しかし、EVIBEATSの諦念は、世の中に絶望した「ネガティブな諦念」ではなく、今を生きる人間はもっと幸せになれるという「ポジティブな肯定」でもある。
本作で流れる音や言葉の数々に耳を傾ければ、今自分が何をすべきか、何をしたいのか、自分にとって幸せとは何なのかがおぼろげにも見えてくるのではないだろうか。
That’s Life(=まあ、それもまた人生さ)
肩の力を抜いて、本作に身を委ねればきっと新しい何かが見つかるはずだ。
プロフィール
奈良県出身、和歌山県在住のトラックメイカー。
かつてはAKIRA名義でヒップホップ・グループ、韻踏合組合奈良支部のNOTABLE MCに所属。2004年の脱退以降は、ヒップホップMCとしてはAMIDA、トラックメイカーとしてはEVISBEATS名義でソロ活動を展開。2008年の『AMIDA』や2012年の『ひとつになるとき』といったアルバムほか、インスト・アルバムや『Sketchbook』などのミックスCDを数多く発表。客演やプロデュース、CM楽曲制作など活動は多岐にわたる。 (Tower Record Online より抜粋)