ベネズエラの伝統楽器クアトロに革新もたらすミゲル・シソ、多様でハイブリッドな現代ラテンジャズ

Miguel Siso - Itinerante

ベネズエラの革新的クアトロ奏者ミゲル・シソの3rd

2018年作『Identidad』がラテングラミー賞「ベスト・インストゥルメンタル・アルバム賞」を受賞したベネズエラを代表するクアトロ奏者/作曲家ミゲル・シソ(Miguel Siso)。彼が2021年にリリースした3rdアルバム『Itinerante』も、南米音楽とジャズのハイブリッドな魅力に溢れた素晴らしい作品だ。

アルバムタイトルは「巡歴」を意味する。ベネズエラに生まれ育ち現在はアイルランドに住む自身を含め、世界中に散ったベネズエラ人に故郷を忘れないでほしいという想いが込められているようだ。タイトル曲である(1)「Itinerancia」はミゲル・シソがクアトロだけでなくギターやベース、キーボード、パーカッションなどを自ら多重録音した楽曲。

つづくスムースジャズ風の美しいバラード(2)「Regreso a Casa」からは基本的にバンド編成になり、しっかりと練られた楽曲構成にクアトロによる即興演奏を軸にしたアンサンブルが繰り広げられる。(3)「El Cardenal」はベネズエラ出身、欧州で活躍するヴァイオリン奏者アレクシス・カルデナス(Alexis Cárdenas)が参加。フランス風の優雅なワルツと、中南米音楽に特徴的なクアトロの激しいストローク(ラスゲオ)との組み合わせがなんとも楽しい演奏だ。

ヴァイオリン奏者アレクシス・カルデナスとの共演(3)「El Cardenal」

(6)「De Allá Vengo」にはベネズエラのサックス奏者エリック・チャコン(Eric Chacón)がゲスト参加。温かな音色のテナーサックスと、効果的なエフェクトも用いたミゲル・シソのクアトロはラテン音楽に新たな息吹をもたらす。

(8)「Somewhere in the World」に参加するのはバグパイプ/ホイッスル奏者のガブリエル・フィゲイラ(Gabriel Figueira)が率いるバンド、ガエリカ(Gaelica)。個性的なケルト音楽の音も多様性に富んだ今作には違和感なく溶け込んでいる。

ラストの(10)「Quita los Males」はトランペットやティンバレス、コンガの音がカリブ海に誘うラテンの大円団だ。

クアトロの名手、Miguel Siso

ミゲル・シソはベネズエラ・ボリバル州プエルト・オルダス生まれ。首都カラカスの芸術大学で音楽を学び、2007年にはベネズエラの若いクアトロ奏者にとって最も重要な賞である「ラ・シエンブラ・デル・クアトロ(La Siembra del Cuatro)」で優勝を果たしている。

2012年にファースト・アルバム『La Siembra del Cuatro』をリリース。斬新なクアトロの演奏を見せたこのアルバムは国内で注目され、ベネズエラの最高の栄誉であるペプシ・ミュージック・アワード(Pepsi Music Awards)でベスト・インストゥルメンタル・トラディショナル・アルバムにノミネートされた。

先進的な音楽性で知られ、伝統的な4弦楽器であるクアトロを演奏するが、彼は伝統音楽には固執せず、常によりグローバルな音楽を探求している。一般的なクアトロのほか、ベネズエラの最初のマルチネックのクアトロを製作した弦楽器製作者アルフォンソ・サンドバルによって作られた特注のトリプルネックのクアトロ「El cuatro triple」を用いた2018年のセカンド・アルバム『Identidad』はラテングラミーのベスト・インストゥルメンタル・アルバム賞を受賞。ペプシ・ミュージック・アワードでは8部門にノミネートされ4部門で受賞を果たした。

彼は2018年にベネズエラを離れ、現在はアイルランドのダブリンに居住している。

Miguel Siso – cuatro triple, guitar, bass, bandola llanera, ukulele, tres Cubano, keyboards, percussion (1), vocals (1, 2, 5)
Jhonny Kotock – piano (2, 3, 4, 5, 6, 8, 10), keyboards (2, 5, 6, 8)
Manuel Sánchez – acoustic bass (2, 3, 4, 5, 6, 8, 9, 10)
Adolfo Herrera – drums (2, 3, 4, 5, 6, 8, 9, 10)
Angel Castro – percussion (2, 4, 5, 6, 8)
Yonathan “Morocho” Gavidia – percussion (8)
Alexis Cárdenas – violin (3)
Lucas Sánchez – violin (8)
Eric Chacón – tenor saxophone (6)
Gabriel Figueira – bag pipes, whistle (8)
Manuel Rangel – maracas (8)
Orlando Molina – guitar (9)
Marcio Tarktarov – pandeiro (9)
Gerald “Chipi” Chacón – trumpet (10)
Luisito Quintero – timbales (10)
Roberto Quintero – congas (10)
Bárbara Sánchez – vocals (2)
Marcial Isturiz – vocals (10), backing vocals (10)
David Alastre – backing vocals (10)
Tony Oscar – backing vocals (10)
Benjamín Becerra – backing vocals (10)

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