ベベウ・ジルベルトが亡き父ジョアンに捧げる無限の愛情。新作の題は『João』、父が愛したサンバ集

Bebel Gilberto - Joao

ベベウ・ジルベルト、父ジョアンへのオマージュ作品『João』

ジョアン・ジルベルト(João Gilberto, 1931 – 2019)とミウシャ(Miúcha, 1937 – 2018)の間に生まれた歌手ベベウ・ジルベルト(Bebel Gilberto)が、ついに父が愛したサンバを歌った。
1966年生まれの彼女は最初のアルバムを発表して以降、これまでに一度も父がレパートリーにしていた曲を録音してこなかった彼女の新作『João』は、その明瞭なタイトルの通り、レジェンドである父親へのトリビュートだ。

両親をほぼ同時期に失った直後に発表されたアルバム『Agora』(2020年)で、伝えられなかった両親への感謝を歌い、取り戻すことの不可能な喪失感を表現した彼女が、これまで見て見ぬふりをしてきた自身のルーツに向き合った作品と言えるだろう。

本作に収められた全11曲は、父親ジョアン・ジルベルトが生前にライヴで幾度も歌ってきた名曲たちだ。ジョアンを彷彿させるギターはギリョルメ・モンテイロ(Guilherme Monteiro)が演奏。アレンジも父親の演奏を踏襲しており、基本的にギターとパーカッション、そしてベベウの歌という編成で、ジョアンの名盤『João Gilberto』(邦題:三月の水)での演奏を彷彿させる。なんとなく“お洒落な音楽”という上澄みのイメージが定着してしまったボサノヴァという音楽の奥底にある、本質的な内省的精神性が存分に感じられる仕上がりだ。
これまでの彼女の歌にはあまり見られなかったリズムにおける小節という概念を大胆に超越する歌唱も、生前のジョアンの“専売特許”へのリスペクトが表れる。

MVも公開された(3)「É Preciso Perdoar」はワンコードのイントロからの怒涛の複雑なコードチェンジという父親の狂気のボサノヴァを踏襲。ウワモノのシンセやピアノは単に父親の焼き直しではないものを作りたいというベベウの個性によるものだろう。

(3)「É Preciso Perdoar」

(9)「Valsa」はジョアンの1973年のアルバム『João Gilberto』に収録されていた、ジョアンが当時の幼い娘ベベウに捧げた楽曲。同じくジョアン作曲の(4)「Undiú」とあわせ、作曲家としては多くの作品を残さなかったジョアン・ジルベルトへの深い愛情が表れた選曲だ。

(8)「Desafinado」は本作でカヴァーされた楽曲の中で最も広く知られた曲だろう。
アントニオ・カルロス・ジョビン(Antônio Carlos Jobim)作曲の“ボサノヴァ”を象徴する名曲。あらためて、つくづく美しい曲だと思う。

アルバムは全編にわたって“ジョアン・ジルベルト”そのものを感じることができる。
ボサノヴァという音楽の真髄。
そしてこのジャンルを表現できるのは、おそらく現在はジョアンの娘たるベベウ・ジルベルトしかいないのだろう、とも感じる。

ジョアン・ジルベルトとベベウ・ジルベルトの貴重な共演動画(1980年)

Bebel Gilberto プロフィール

ベベウ・ジルベルト(Bebel Gilberto, 1966 – )はブラジルの歌手。
両親であるギタリスト/歌手ジョアン・ジルベルトと歌手ミウシャは短期間アメリカのニューヨークに住んでいた時期があり、その時に生まれている。両親とともに3歳でメキシコに移り、5歳でブラジル・リオデジャネイロに移った。

両親はベベウが7歳のときに別居。以降、母親とリオデジャネイロで過ごし、父親とニューヨークへ行くという生活が続いた。彼女は「父は私に完璧主義者になることを教えてくれた。でも母は、私に完璧主義を失う方法を教えてくた。現在の私の音楽ではその影響を聴くことができると思います」と語っている

歌手としてのデビューは1986年にセルフタイトルのEPで果たし、1991年には荒井由美(松任谷由美)の名曲群をポルトガル語でカヴァーしたアルバム『De Tarde, Vendo O Mar』をリリースしているが、世界的な最初のヒットは2000年作『Tanto Tempo』。ここではジョアン・ドナート、セルソ・フォンセカ、マルコス・スザーノ、カルリーニョス・ブラウンといったブラジルの音楽界を代表する音楽家が集い、彼女の世界デビューに花を添えた。

以降、ベベウ・ジルベルトはブラジルを代表する歌手として活躍を続けている。

9月25日にはギターのギリョルメ・モンテイロらとともにコットンクラブ東京での公演も予定している。

聴き比べプレイリスト

ベベウ・ジルベルトのこのアルバムを聴いて、やはりジョアンの演奏も聴き返し比べたくなった。
アルバム収録曲のジョアンの音源を並べたプレイリストを作成してみたので、参考にしてみてほしい。

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