サニー・キム、ヴァルダン・オヴセピアン、ベン・モンダー『Liminal Silence』
韓国出身のヴォーカリスト/即興音楽家サニー・キム(Sunny Kim)と、アルメニア出身のピアニストのヴァルダン・オヴセピアン(Vardan Ovsepian)、そして米国のギタリストのベン・モンダー(Ben Monder)による“静寂”をテーマにした即興音楽プロジェクト『Liminal Silence』。ここにある音は終始瞑想的で、タイトルのとおり音楽と静寂の間にある機微な閾を表現する。
3人で壮大な音響空間を創り上げる8分半におよぶ(1)「The Totality of Silence」のような抽象的・前衛的表現のトラックから、(2)「Love (Unconfined)」や(7)「Fall」といった歌詞があり明確な音楽的構造を持つトラックまでさまざまだが、一貫して音に対する美意識を感じさせる。
音楽で静寂を表現することは、その行為自体に矛盾があるため本来は不可能だ。サニー・キムは、静寂について次のような哲学を語っている:
人生の循環的なスパイラルにおいて、静寂は必要不可欠です。静寂の中で、私たちは聞こえないものの声に耳を傾け、聞くことができます。多くの場合、そこには目に見えるものから隠された真実が潜んでいます。
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深い音楽的関係性から生まれたプロジェクト
サニー・キムとベン・モンダーのパートナーシップは、キムがボストンのニューイングランド音楽院で学んでいた2005年に、モンダーが作曲した「Hatchet Face」を演奏した録音を彼に手渡したときまで遡る。同年、キムがニューヨークに移り住んで間もなくして、二人はニューヨークで初のデュオ・ライヴを行った。以来キムとモンダーは米国や韓国で数多くの公演を行い、3枚のアルバム『Painter’s Eye』(2012年)、『The Shining Sea』(2014年)、『Dream of the Earth』(2017年)を共に制作し、そのうちの2枚は韓国音楽大賞の年間最優秀ジャズ・アルバム部門にノミネートされた。
キムとヴァルダン・オヴセピアンは、キムが2018年にオーストラリアのメルボルンに移住した後、コラボレーションを始めた。オブセピアンがアデレードの歴史的なボーモントハウスで行った室内アンサンブルの一員としてキムが参加。その翌年にも、キムが講師として働いているメルボルン大学でのレジデンスで再び共演をし、その際に今作『Liminal Silence』の最初のアイデアが生まれたという。
2019年のロサンゼルスでのデビュー・パフォーマンスに続き、トリオの活動は2023年のアルバム・リリースに結実した。
Sunny Kim – voice, live processing
Vardan Ovsepian – piano, keyboards
Ben Monder – guitar