Apple Music Classical が利用できるようになって、このアプリがなければ出会えなかったであろうクラシック音楽のアルバムに出会える機会がぐんと増えた。クラシックの場合、同じ曲をさまざまな時代でたくさんの音楽家が演奏しているという特徴から、従来のApple Musicではその検索に限界があった。そうした課題に対し、Apple Music Classicalでは作曲者や指揮者、楽器ごと、リリース日といったクラシック音楽を深掘りするための情報をデータベース化。豊富な検索軸から素早く聴きたいアルバムを選ぶことが可能になっている。
今のところ僕のApple Music Classicalの使い方といえば、エルネスト・ナザレー(Ernesto Nazareth)やアグスティン・バリオス・マンゴレ(Agustín Barrios Mangoré)といったお気に入りの南米の作曲家の作品の演奏をたくさん聴き、まだ知らない演奏家を見つけ楽しんでいるくらいなのだが、今回紹介するアルバムもこのアプリがなければ出会えなかったであろう作品だ。
これがApple Musicに加入していれば無料で使えるのだから、リスナーにとっては本当に恵まれた時代になったものだと思う。
Brasil Guitar Duo plays Gismonti
ブラジル・ギター・デュオ(Brasil Guitar Duo)によるエグベルト・ジスモンチ(Egberto Gismonti)曲集『Brasil Guitar Duo plays Gismonti』。個人的には南米の音楽家であるジスモンチの楽曲もしっかりとクラシック音楽のカタログに載っていたことへの歓喜と、現代ブラジルを代表するギター・デュオであるこの2人がついにジスモンチ曲集をリリースしていたことを知るという二重の喜びとなった。
ジョアン・ルイス(João Luiz)とダグラス・ローラ(Douglas Lora)から成るブラジル・ギター・デュオは1990年代の終わり頃から活動を行っており、これまでにバッハ、マリオ・カステルヌオーヴォ=テデスコ、フェルナンド・ソル、ドメニコ・スカルラッティ、エンリケ・グラナドスといった欧州のレパートリーの他、ジャコー・ド・バンドリンやエイトル・ヴィラ=ロボスなど自国の作曲家の作品にも長い年月をかけて取り組んできた。
ジョアン・ルイスとダグラス・ローラにとって、ブラジルの音楽文化における最大の標石であるエグベルト・ジスモンチもまたインスピレーションの源であり、ギターを探求する2人の動機であり続けた。まだ10代の頃に2人はデュオを結成したが、この頃からジスモンチの(1)「Frevo」や「Água e Vinho」(「水とワイン」, 本作未収録)などを演奏していたという。
(6)「7 Anéis」も2人にとって思い入れの深い曲だ。コンサートでも重要なレパートリーとしているこの曲は、演奏のたびにスタンディング・オベーションが保証されているという。
今作収録曲のうち、(10)「Alegrinho No. 2」を除く全曲のジスモンチ自身によるオリジナル音源はピアノでの演奏だ。ジョアン・ルイスはそうしたジスモンチ自身のピアノ音源(ライヴ演奏も含む)から注意深く採譜をし、出版されたスコアをなぞるのではない、オリジナルの編曲を書き上げていった。その成果はもはや疑いようがなく、ジスモンチの音楽に潜む特別なもの、──肉体的に躍動する野性、詩や哲学の機微、なによりも音楽への深い愛情のようなもの──を再現することに成功している。静かな情熱が迸る(2)「Dom Quixote」などはその好例だろう。
Brasil Guitar Duo :
João Luiz – guitar
Douglas Lora – guitar