レシーフェの伝統文化を力強く前進させるフライラ・フェホ新譜
ブラジル北東部レシーフェ出身のSSW、フライラ・フェホ(Flaira Ferro)の新作『Afeto Radical』。当サイトが2023年のベスト・アルバムに挙げたクララ・コエーリョ(Clara Coelho)とのデュオでたおやかな感性が発揮された『Áua』と比較すると、より彼女の音楽的なルーツであるレシーフェに根付く豊かな音楽文化が反映された作品となっている。
アルバムには11曲の未発表曲を収録。
北東部(ノルデスチ)音楽やサイケロックの影響を強く受けた先行シングル(1)「Afeto Radical」(過激な愛情)では、彼女の長年の音楽的インスピレーション源であるシンガーソングライターのレニーニ(Lenine)がゲスト参加。レシーフェの象徴的な伝統文化/音楽であるフレーヴォ1を芯とした前衛的なロックは強いインパクトを与える。「手段は道義を見失った/世界は慎みを失った/恐怖を煽り戦争を起こすために」という強烈な歌詞で始まるこの曲は消費社会や物質主義への反抗や、自由な表現、そして分断された人々の繋がりの回復といったテーマを力強く描く。リズムは強く音楽を牽引し、ファズの効いたサイケデリックなギターや混乱したブラス、カオティックな半音の多用がフライラ・フェホのアーティスティックな主張を補強している。
(4)「Sabe,」は『Áua』(2023年)で魅せた美しい感性を引き継ぐ曲だ。この曲はヴィオラ・カイピラ奏者のライス・ヂ・アシス(Laís de Assis)がフィーチュアされ、アレンジはドラ・モレレンバウム(Dora Morelenbaum)が担う。弦楽四重奏によるストリングスの表現も素晴らしい。
(5)「Os Ânimos」には“フォホーの女王”と呼ばれる伝説的歌手エルバ・ハマーリョ(Elba Ramalho)が参加。後半での激しく高揚するマラカトゥ・フラウ2が最高にかっこいい。
今作はフライラ・フェホが自身のルーツであるブラジル北東部の文化を称賛しつつ、現代社会の課題や個人的な経験を優れた芸術に昇華させた傑作と言えるだろう。アルバムのコンセプトは、彼女が初めての子の出産後に経験した産褥期の内省から生まれたという。この時期に感じた母性や社会の分断、戦争のニュースに対する思いが創作に反映されている。
- フレーヴォ(frevo)…ブラジル・ペルナンブコ州レシーフェ発祥の100年以上の伝統を持つダンスと音楽。カラフルな小さい傘を持ちながら、カポエイラをアクロバティックに進化させたような踊りで知られる。 ↩︎
- マラカトゥ・フラウ(maracatu rural)…ペルナンブコ州内陸の農村地域で生まれ発展した音楽。 ↩︎