ノルデスチ音楽の伝統と現在地を結ぶ傑作。アコーディオン奏者マルセロ・ジェネッシ新作

Marcelo Jeneci - Caravana Sairé

ノルデスチ音楽の現在地を示すマルセロ・ジェネッシ新作

ラテン・グラミー賞ノミネート経験もあるサンパウロ出身の人気SSW/アコーディオン奏者マルセロ・ジェネッシ(Marcelo Jeneci)の2023年新譜『Caravana Sairé』は、彼が幼少期に一時期過ごしたブラジル北東部ペルナンブーコ州サイレ(Sairé)の伝統音楽に特化した、サウダーヂ感がありつつも彼らしく現代的にアップデートした素晴らしい作品となった。

アルバムは全10曲収録。ほとんどがカヴァーで、ルイス・ゴンザーガ(Luiz Gonzaga)を始めとするノルデスチ・クラシックスを原曲へのリスペクト溢れるフォホーの形式で再解釈する。

マルセロ・ジェネッシとルーカス・ダンLucas Dan)によるアコーディオンと、ザブンバやトライアングル、パンデイロといったパーカッションが主役となるフォホーの基本的な編成を軸にするが、(2)「Lembrança de um Beijo」にはスペインのギタリスト、ダニエル・カサレス(Daniel Casares)によるフラメンコ・ギターがフィーチュアされるなど従来のフォホーにはない新しい感覚も特徴的だ。

曲調は典型的なフォホーながら、フラメンコギターが新しい風を吹き込む(2)「Lembrança de um Beijo」

ルイス・ゴンザーガ(Luiz Gonzaga)とウンベルト・テイシェイラ(Humberto Teixeira)による名曲(3)「Baião」、ペトルシオ・アモリン(Petrúcio Amorim)作のキャッチーな(5)「Devagar」など、ダンス音楽であるフォホーの真骨頂のようなレパートリーが続く。

マルセロ・ジェネッシと、今作の芸術的な方向性を決定づけたペルナンブーコの映画監督であるヘルダー・ペッソア・ロペス(Helder Pessoa Lopes)は今作制作の前にルイス・ゴンザーガの故郷エシュ(Exu)やペルナンブーコの先住民族の土地であるパンカラル(Pankararu)などを訪れ、土地とその歴史、文化への理解を深めたという。そうして生まれたこの作品は、ノルデスチの音楽文化の伝統から果てしなく繋がる通過点としての現在地を体現した紛れもない傑作だ。

Marcelo Jeneci プロフィール

マルセロ・ジェネッシは1982年ブラジル・サンパウロ生まれ。幼少期より楽器のリペアマンの父親から手解きを受けて育ち、2020年にシコ・セーザル(Chico César)のライヴ・バンドのアコーディオン奏者としてキャリアを開始した。作曲家としては2008年に歌手ヴァネッサ・ダ・マタ(Vanessa da Mata)と共作した「Amado」で初めての成功を収めている。

2010年、カシン(Kassin)のプロデュースによる『Feito Pra Acabar』でソロデビュー。2013年の2ndアルバム『De Graça』はラテン・グラミー賞にノミネートされるなど高く評価された。
2015年には歌手トゥリッパ・ルイス(Tulipa Ruiz)のレコーディングに参加し、その後彼女と全国ツアーも行っている。

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