稀代のSSW/マルチ奏者アントニオ・ロウレイロ、複雑で洗練された7年ぶりソロ新譜『Aldeia Coração』

Antonio Loureiro - Aldeia Coração

アントニオ・ロウレイロ、7年をかけて制作した待望の新作

ブラジルのシンガーソングライター/マルチ奏者のアントニオ・ロウレイロ(Antonio Loureiro)がソロとしては4枚目となる新作アルバム『Aldeia Coração』をリリースした。ブラジルの多様な伝統・近代音楽や、世界中の才能溢れる音楽家たちから影響を受けながら、独自の音楽観や表現技法を築いてきた稀代のアーティストの究極的な到達点であると同時に、まだまだ可能性に満ちた未完の大器の現在地とも思える余白を残す、限りなく興味深い傑作だ。

チガナ・サンタナ(Tiganá Santana)が作詞した(1)「Aldeia Coração」は、アントニオ・ロウレイロとハファエル・マルチニ(Rafael Martini)によるデュオ・アルバム『Ressonância』(2022年)に収録されていた楽曲の再録だ。原曲はローズピアノやシンセベース、打ち込みのリズムなどによってSF的なコズミック・サウンドを特徴としていたが、今作ではドラムスやパーカッション、ベース、シンセ、鍵盤、ヴォーカルといったすべてのパートをロウレイロが演奏。複雑奇怪なリズムのエッジがより際立つアレンジ/ミックスとなっており、彼のデビュー作『Antonio Loureiro』(2010年)の頃に感じられた底知れぬ可能性の塊のような感覚が鮮やかに蘇る。

(1)「Aldeia Coração」

(2)「Roda dos Amantes」はロウレイロの過去作品にも参加していたヴォーカリストのルアナ・サッジョーロ(Luana Saggioro)をゲストに迎え、オクターヴ・ユニゾンで浮遊感のあるメロディーを強調する。編成にはサックスやトロンボーンも加わり、ロウレイロが演奏するドラムスやガットギター、ピアノなどを中心とした解像度の高い独特のサウンドの中で見事に溶け合う。

弦楽四重奏をフィーチュアしながら、アフロ・ブラジル的なパーカッション・アンサンブルを特徴とした(4)「Será」では、ヘナート・ブラス(Renato Braz)がヴォーカルを担っている。歌の旋律もアンドレ・メマーリ(André Mehmari)を思わせるほど高度に洗練されており、アントニオ・ロウレイロのシンガーソングライターとしての新境地を感じさせる。

ペドロ・マルチンス(Pedro Martins)作曲、ロウレイロが作詞した(5)「Compaixão」では女性SSW、マリナ・マルキ(Marina Marchi)をフィーチュア。ガットギターとローズピアノによる独特の奇妙で美しい和音を繰り返すボサノヴァを基調とした不思議な雰囲気が魅力的だ。

(6)「Sem Ar」も独特の和音感覚とそれに乗せるメロディーの圧倒的なセンスが素晴らしい。この曲もヴォーカルとすべての楽器パートをアントニオ・ロウレイロが演奏しており、パーカッションやピアノを中心としながらシンセサイザーでアクセントを加えたサウンドは彼の真骨頂。詞はセーザル・ラセルダ(César Lacerda)が担当している。

(6)「Sem Ar」

(7)「Vai Cair」には米国のサックス奏者デヴィッド・ビニー(David Binney)がゲスト参加。アルトサックス以外のパートはすべてロウレイロが演奏し、幾分無機質なドラムマシンも加えた魅惑のサウンドが展開される。

今作は、前作である『Livre』(2018年)リリース後の2019年から2025年までの7年間という長い年月をかけて制作され、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによるすべての犠牲者に捧げられている。

Antonio Loureiro – drums (1, 2, 3, 5, 6, 7, 8), percussion (1, 2, 4, 7, 8), piano (1, 2, 3, 4, 6, 8, 9), Rhodes (1, 3, 6, 7), synthesizers (1, 3, 5, 6, 7, 8), electric bass (1, 5, 6), nylon string guitar (2, 5, 8), electric guitar (8), drum machine (5, 7), clavinet (6), B3 organ (6), vocals (1, 2, 3, 6, 7, 8)

Luana Saggioro – vocal (2)
Gil Silva – soprano and tenor saxophone (2)
Hugo Caldeira – trombone (2)
Martin Ibarra – vocals (3)
Frederico Heliodoro – bass (3)
Renato Braz – vocal (4)
Luka Milanovic – violin (4, 8), viola (8)
Jovana Trifunovic – violin (4)
Mikhail Bugaev – viola (4)
Eduardo Swerts – cello (4)
Bruno Migotto – acoustic bass (4)
Marina Marchi – vocal (5)
David Binney – alto saxophone (7)
Conrado Goys – acoustic guitar (8)
Alberto Continentino – electric bass (8)
Guto Wirtti – acoustic bass (8)

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