▶︎映画『ビトゥーカ ミルトン・ナシメント フェアウェル・ツアー』
https://www.reallylikefilms.com/bituca
“神の声” と称される伝説的音楽家ミルトン・ナシメント、その半生と2022年最後のツアーに迫った圧巻のドキュメンタリー。ミルトンを崇拝する57名による証言と、本人のインタヴュー&ライブフッテージで綴る115分。
配給/リアリーライクフィルムズ、パルミラムーン
後援/駐日ブラジル大使館、ギマランイス・ホーザ文化院
絶賛上映中、恵比寿ガーデンシネマ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー

ビョーク(Björk)がポルトガル語で歌い上げた、ミルトン・ナシメントの大名曲「Travessia(トラヴェシーア)」。録音には、オリジナルの「Travessia」のアレンジにも関わったエウミール・デオダートも参加しています。
エイズ撲滅支援の世界的プロジェクト『Red Hot + Rio』のために録音されながらも、結果的に公式リリースを見送られ、「幻の音源」となってしまいました。当時の報道では、ビョークがこの仕上がりを気に入り、自身の新作のために取っておきたいと考えたためだと伝えられています。ですが、その後の公式アルバムにも収録されず、現在知られている音源は、のちに一部の非公式コンピレーション(『Icelandic Mysteries』など)に収録された音源です。現在のところ、正規のディスコグラフィーには残らない「アウトテイク」となってしまっています。
ビョークは90年代初頭に、エリス・レジーナが歌う「Travessia」を聴いて深い感銘を受けていました。英語の歌詞(ジーン・リースが英訳した「Bridges」というタイトル)で歌う案もあったそうですが、ビョーク自身がオリジナルの響きを強く愛していたため、意味が完全には分からずともポルトガル語で歌い切ることを選んだそうです。
エウミール・デオダートと共にこの曲の共同プロデュースをしたブラジル人音楽プロデューサーのアルナルド・ヂソウテイロ(Arnaldo DeSouteiro)が、この時の録音の時の事を書き残しています。
録音は1996年。ビョークのディスコグラフィーで言うと2ndソロ『Post』(1995)と3rd『Homogenic』(1997)の間の時期です。
デオダートは、スタジオやミュージシャン、エンジニアの選定などをすべてアルナルドに一任し、この1曲の録音のためだけに拠点にしているニューヨークからリオは飛んで来ました。
ビョークの強い希望は、完全なるアコースティック・アレンジであること、そして何より、ベーシック・トラック(伴奏の基盤)をブラジルで録音することでした。リオデジャネイロのスタジオを押さえ、以下の錚々たるミュージシャンを揃えました。ギタリストのネルソン・アンジェロは、「クルービ・ダ・エスキーナ」の一員にも名前の上がるミルトン・ナシメントやエリス・レジーナとも長年ステージを共にしてきたギタリストです。
Arranged By, Piano, Producer [Uncredited] – Eumir Deodato
Bass [Uncredited] – Jamil Joanes
Drums [Uncredited] – Carlos Bala
Guitar [Uncredited] – Nelson Angelo
Co-producer [Uncredited] – Arnaldo DeSouteiro
たった2テイクで素晴らしいトラックが録り上がったそうです。デオダートはさらにロンドンへ渡って、イゾベル・グリフィス(Isobel Griffiths)の采配のもとでストリングスを追加しました。
上述しましたが、デオダートをはじめ、スタッフの多くはジーン・リースが英訳した歌詞でビョークに歌ってもらいたいと考えていました。しかし、彼女はどうしてもポルトガル語のまま歌うことを選びました。言葉そのものは理解できずとも、彼女はミルトン・ナシメントやエリス・レジーナの録音を通じて、すでにこの曲の魂を深く心に刻み込んでいたからです。
この曲の録音風景のビデオや、MAM(リオデジャネイロ近代美術館)でのビョークのコンサート映像も収録されているそうですが、未発表のままだそうです。いつか、日の目を見る日はくるのでしょうか。
この時期、ビョークは自身の楽曲(「Hyperballad」や「Isobel」など)のストリングス・アレンジにデオダートに依頼していました。そんな親密な信頼関係も、このカバーの録音に繋がりました。
もし、『Red Hot + Rio』に収録されていたら… その後のビョークのアルバムに収録されていたら… と考えると残念ではあります。
ミルトン、エリス・レジーナ、デオダート、そしてビョークをつなぐ、幻の交差点のような録音。歴史の表舞台からは姿を消した幻の音源。しかし、そこには確かに、ビョークがブラジル音楽の真髄に触れ、敬意をもってそれに応えようとした「魂の共鳴」が刻まれています。
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