南米新世代音楽を軸に、多国籍・多文化が混淆する果てなき音楽の旅路。ハファエル・ジメネス 至福の大傑作

Raphael Gimenes - Caçador De Horizontes

ブラジル出身デンマーク在住SSWハファエル・ジメネス『Caçador De Horizontes』

このような時代性を超越した、あまりに素晴らしい音楽作品と出会うたびに、この素晴らしさを、どうすればより多くの人々に伝えられるだろうかと悩む。自分に何らかの強い権力あるいは潤沢な資金があれば、間違いなくメディア露出を最大化し、“年間最優秀アルバム賞”を授与して、彼にレッドカーペットを歩ませるのに──でも実際はもちろん権力も金もないから、こうして最大限の敬意をもって紹介記事を書くほかない。…いや、これだけ気高い音楽家なら、資本主義の悪しき結晶と化したそんな賞にはきっと興味はないだろうな。

ハファエル・ジメネス(Raphael Gimenes)の4作目となる『Caçador De Horizontes』(2026年)は、最大限の賛辞を贈るに値する最高のアルバムだ。ブラジル・レシーフェ出身で幼い頃にデンマーク・コペンハーゲンに移住し、現在も同地に住む彼は、故郷ブラジルとの精神的・音楽的な繋がりをずっと維持してきた。前作『DINAMARCA』(2024年)も美しい大傑作で、当時の紹介記事で私は「そのサウンドは“ミナス新世代”最高峰の名盤であるアレシャンドリ・アンドレス(Alexandre Andres)の『Macaxeira Fields』をも想わせる」と書いたが、今作にはなんと、そのアレシャンドリ・アンドレスが共同プロデューサー/フルート奏者として迎えられている。さらに共同プロデューサー/ギタリストとしてアルゼンチン出身のルーカス・デラクロワ(Lucas Delacroix)が参加しており、ミナスの伝統を受け継ぐ声とガットギターを基調に、“アルゼンチン・ネオフォルクローレ”のシーンにも繋がる室内楽的な管弦楽やジャズのエッセンスを加え、南米音楽と北欧音楽の見事な調和ともいうべき壮大なスケールの作品を創り上げた。2枚組として構想され、計16曲74分におよぶが、類を見ない完成度のため冗長さはまったく感じさせず、どの楽曲も瑞々しく音楽の喜びに溢れている。

アルバムには楽曲ごとに入れ替わり立ち替わり30人以上のミュージシャンが参加し、豊かなアンサンブルを奏でる。前作ではアルバムに確かな特徴を与えていたタブラ奏者ヤン・カデレイト(Jan Kadereit)は、今作では控えめだが(1-1)「O Nevado」など数曲に参加。こちらも前作にも参加の歌手セシリア・パール(Cecilia Pahl)は(2-2)「El Pajarillo Y La Mariposa」でヴォーカルを担当する。ほかにはアフロブラジル系の人気シンガーのイレッシ(Ilessi)が(1-2)「O Abraço Da Serpente」に、ボリビア系のフルート奏者フラビア・ワラチ(Flavia Huarachi)は(6)「De Regreso」など複数の曲に参加。他にもここに挙げきれないほど多くの音楽家が参加しているが、アルバム全体の統一感が損なわれることがないのは確かな青写真と一貫したディレクションの素晴らしさの為せる業だろう。

ギターの繊細な5連符を中心に、豊かなハーモニーが溶け込む(1-1)「O Nevado」

ほぼすべての楽曲がハファエル・ジメネスのオリジナルだが、2曲のカヴァーも収められている。ひとつはミナスを代表する音楽家ミルトン・ナシメント(Milton Nascimento, 1942 – )の代表曲である(1-4)「Vera Cruz」で、このアレンジひとつとっても美しく繊細で、アルバムの他の曲とあわせても違和感なく溶け込んでいる。ここで短いが印象的なギターソロを聴かせるのはポルトガル出身のマネ・フェルナンデス(Mané Fernandes)。彼もまた、ジャズやヒップホップといった異なるジャンルの音楽に繋がりを見出し、文化の大きな流れのなかにある関係性を探求しようとするタイプの音楽家のようだ。 

ミルトン・ナシメントのカヴァー(1-4)「Vera Cruz」も絶品

(1-6)「De Regreso」はボリビアのシンガーソングライター、マティルデ・カサソラ(Matilde Casazola, 1942 – )の楽曲。こうした選曲も、彼がブラジルだけでなく、南米の幅広い音楽からインスピレーションを受けている証左だ。

アルバム後半の幕開けとなる小品(2-1)「Entre Ríos」ではカルロス・アギーレやセバスティアン・マッキらとの共演で知られるルシアナ・インスフラン(Luciana Insfran)がスペイン語で歌う。つづく(2-2)「El Pajarillo Y La Mariposa」はフロール・バボディージャ(Flor Bobadilla)、ハファエル・ジメネス、セシリア・パールの3人が歌い、アレシャンドリ・アンドレスが軽やかなフルートを添える。

(2-5)「A Safira De Igarassu」や(2-6)「Isla Del Sol」は管楽器アンサンブルなどアレンジも賑やかだが繊細さは失わず、ハファエル・ジメネスのファルセット・ヴォイスも映える。

アルバムを通じて、これほど至福の体験をもたらしてくれる作品はそうそう多くはない。
多国籍・多文化の粋を結集し、発展的な音楽創造のまだ見ぬ可能性を示してくれる、大傑作だ。

Raphael Gimenes – vocal, guitar, percussion
Alexandre Andrés – flute
Ilessi – vocal
Flavia Huarachi – flute, background vocal
Anders Skibsted – accordion
Moa Edmunds Guevara – guitar
Mané Fernandes – guitar
Albert Karch – drums
Gus Orihuela – violin
André Maria – guitar
Luciana Insfran – vocal
Flor Bobadilla – vocal
Cecilia Pahl – vocal
Pancho Rangonese – piano
Stanislav Zhukovsky – duduk
Júlio Rangel – piano, fretless bass
Iamana Mari – vocal
Gabriel Milliet – flute
Gustavo Assis-Brasil – electric guitar
Rodrigo de Oliveira – violin
Rodrigo Bustamante – violin
Ayran Nicodemo – violin
Rodrigo Toffolo – violin
Gerry Varona – viola
Daniel Mendes – viola
Camila Ribeiro – cello
Robson Ferreira – cello
Aurelijus Užameckis – contrabass
Jan Kadereit – percussion
Lucas Delacroix – synth bass
Fabio Ogata – horn
Pedro Mota – trumpet
Ulisses Luciano – trumpet
João Machala – trombone
Yuri Vellasco – drums

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