理屈を超え、魂と身体を解き放つ。ベルギー発スピリチュアル・ジャズ、オラ・トゥンジ『Trust』

Ola Tunji - Trust

コルトレーンやファロア・サンダースの精神を受け継ぐベルギーの若手バンド

女性サックス奏者オルネラ・ヌレ(Ornella Noulet)をリーダーとし、ベルギー・ブリュッセルを拠点とする4人組 オラ・トゥンジ(Ola Tunji)が、初アルバム『Trust』で鮮烈なデビューを飾った。ナイジェリア生まれのパーカッション奏者ババトゥンデ・オラトゥンジ(Babatunde Olatunji, 1927 – 2003)へのオマージュを込めたこのバンドは、彼がジョン・コルトレーン(John Coltrane, 1926 – 1967)やファロア・サンダース(Pharoah Sanders, 1940 – 2022)をはじめとするアメリカの1960年代スピリチュアル・ジャズに与えた影響を、それから半世紀を経た現代に実に生々しく蘇らせている。

このバンドの音楽は、過剰に複雑だったり、あるいは様々な音楽の要素を次々と取り込んで肥大化する現代ジャズへの一種のアンチテーゼのように聴こえる。彼女らの音楽の根底にあるのは、人間の動物的な欲求や、その欲求に従って生きたときに生じるシンプルな熱狂と、その連続だ。全11曲の中では熱狂だけでなく内省的な静謐もあるが、そうした楽曲でさえ、最終的に行き着くのは瞬発力と爆発力を兼ね備えた圧倒的な熱狂だ。

(2)「Devotion」

本能が沸騰するときの神々しいまでの美しさが、この作品の随所で感じられる。
アルバムの中でもその姿勢がとりわけ鮮明なのが、9分半を超える(5)「Speak up (Your Voice Is Your Strength)」だ。ゲスト奏者を交えたこの楽曲で、彼女らは声を上げること、その声が自分自身の力になることを力強く音楽の形にのせる。ジェシー・ヌアマー(Jessy Nuamah)のスポークン・ワードと、シンプルなメッセージを繰り返すヴォーカルが楽曲の核を形作る。ガスパール・マトラン(Gaspard Mathelin)による時空を情動的に切り裂くトランペット、マルタン・ブルエ(Martin Blouet)のヴィブラフォンも静と動を見事に表現。彼らの即興演奏は、奏者が個々の技量を競い合うためのものではなく、自分の内側にあるものをさらけ出し、他者と響き合わせるための行為として立ち現れる。スピリチュアル・ジャズが持つ解放の精神が、現在の社会を生きる私たちの切実な感覚へとつながっていく。

アルバムの終盤に置かれた(10)「Shakti」と(11)「We Choose Love」も、この作品が目指す場所を象徴している。前者はヒンドゥー教などで語られる根源的な力を想起させ、後者は愛を選び取るという意志をタイトルに刻む。内面へと深く潜っていくことと、他者や世界へ向かって開かれていくことという一見対になるようなメッセージだが、ここではひと続きの営みとして描かれているのが印象的だ。

(10)「Shakti」

オルネラ・ヌレを中心とする4人の演奏には、1960年代のスピリチュアル・ジャズへの敬意が息づいている。その精神を過去の様式として再現するのではなく、いま自分たちが生きる時間の中で鳴らし直していることに、このアルバムの価値がある。身体を揺さぶるリズムも、むき出しの感情をぶつけ合う即興も、最後には人間同士のつながりへと向かっていく。

本作『Trust』は、音楽を通じて自分自身を信じ、他者を信じ、世界との関係を結び直そうとする作品だ。 その意志は、理屈よりも先に身体へ届く。聴き終えたあとに残るのは、静かな感動というよりも、もう一度何かを始めたくなるような熱だ。2026年という時代に、こういう熱量の高い作品に巡り会えたことが本当に嬉しい。

Ola Tunji 略歴

オラ・トゥンジ(Ola Tunji)は、フランス出身のサックス奏者オルネラ・ヌレ(Ornella Noulet)を中心に、ベルギー・ブリュッセルで結成されたジャズ・カルテット。メンバーはオルネラ・ヌレ(サックス, パーカッション)、オスカル・テルエル(Oscar Teruel, ピアノ)、アンソニー・ジュラフスキー(Anthony Jouravsky, コントラバス)、エゴン・ウォルフソン(Egon Wolfson, ドラムス)。

ジョン・コルトレーン、アリス・コルトレーン、ファロア・サンダース、アルバート・アイラーらに連なる1960年代のスピリチュアル・ジャズやフリー・ジャズを重要な源泉とし、即興演奏を精神的かつ社会的な表現として捉えている。バンド名は、ナイジェリア生まれのパーカッション奏者ババトゥンデ・オラトゥンジ(Babatunde Olatunji, 1927 – 2003)に由来。アフリカのリズムを米国のジャズ・シーンに紹介し、ジョン・コルトレーンとも親交のあった彼への敬意が込められている。

2024年9月に初音源EP『Ola Tunji』を発表。2025年にはベルギーのヘント・ジャズ・タレント・コンテストで審査員賞と観客賞を獲得し、アヴィニョン・ジャズ・フェスティバルのコンテストでも評価を得た。2026年、ベルギーのレーベルW.E.R.F. Recordsからデビュー・アルバム『Trust』を発表。トランス状態を思わせる濃密な演奏を通じて、音楽による精神的な解放と集団的な高揚を追求している。

Ola Tunji :
Ornella Noulet – saxophones, percussion
Oscar Teruel – piano
Anthony Jouravsky – double bass
Egon Wolfson – drums

Guests :
Jessy Nuamah – vocals (3, 5)
Gaspard Mathelin – trumpet, percussions (3, 5)
Martin Blouet – vibraphone (5, 8)

Ola Tunji - Trust
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