イタリアのピアニスト、エンリコ・ピエラヌンツィがオーケストラと共演
細部まで緻密に編曲されたオーケストラと、ジャズのピアノトリオによる即興演奏による素晴らしくエキサイティングな新譜だ。イタリアを代表するピアニスト、エンリコ・ピエラヌンツィ(Enrico Pieranunzi)の2026年作『Improclassica』。そのタイトル通り、西洋クラシックの名曲をモチーフとしたジャズ・インプロヴィゼーション(即興)の作品である。
特筆すべきは、今作はありがちな“クラシック曲のジャズアップ”ではないということ。サティやシューマンの名曲のフレーズはあくまでもモチーフとして引用され、楽曲としてはジャズ・ピアニストのオリジナルな表現や、原曲の再構成が多くを占めている。
ピエラヌンツィらしい抒情的な短調から始まり、すぐにJ.S.バッハの「フルート・ソナタ 変ホ長調 BWV 1031 – 第2楽章 シチリアーノ」がテーマとして提示される(1) 「SICILYAN DREAM」は、ジャズのピアノトリオとオーケストラという編成の聴きごたえが凝縮されている。約6分間の演奏で多くを占めるのはピアノトリオの互いに呼応するインタープレイだが、境界を感じさせないほど自然にオーケストレーションも効果的に溶け込み、シチリアの陽光を表現。つづくエリック・サティの「ジムノペディ」を引用した(2)「GYMNOSATIE」では、サティ特有のミニマルな旋律や独特の和声感覚を取り入れながら、オーケストレーションによって想像のスケールを膨らませてゆく。
ロベルト・シューマンへの親愛をタイトルに込めた(3)「MEIN LIEBER SCHUMANN」は、ロマン派らしい情感とジャズの自由な展開が交差する一曲。原曲の面影をたどる楽しさに加え、ピエラヌンツィのピアノが旋律をしなやかに変奏していく過程にも惹きつけられる。(4)「HOMMAGE À MILHAUD」は、フランスの作曲家ダリウス・ミヨーに捧げられた作品。クラシックとジャズの接点を探る本作のコンセプトにも通じる選曲であり、オーケストラとトリオの対話が作品に彩りを添える。
続く(5)「CHEVEUX」、そして最後を飾る(6)「SUITE 785」まで、ピエラヌンツィの音楽はクラシックの伝統を尊重しながら、即興演奏ならではの予測できない展開へと進んでいく。オーケストラの緻密なアレンジと、ピアノ、ベース、ドラムスが織りなす躍動的なインタープレイ。その二つがひとつの音楽として結実している点こそ、本作の醍醐味だろう。
オーケストラはミラノを拠点とするイ・ポメリッジ・ムジカーリ(Orchestra I Pomeriggi Musicali)、指揮者はミケーレ・コルチェッラ(Michele Corcella)。
今作は有名なクラシック曲が多く引用されているので、名旋律を知っていれば、その変容に耳を傾ける楽しみがある。一方で先入観なく聴いても、豊かな旋律とダイナミックな即興やアンサンブルに引き込まれる。
長年にわたりクラシックとジャズの双方を探究してきたピエラヌンツィの音楽的な蓄積が、鮮やかな形で結実した一作だと言えるだろう。
Enrico Pieranunzi 略歴
エンリコ・ピエラヌンツィは1949年イタリア・ローマ生まれのピアニスト/作曲家。ジャズギタリストの父の影響で幼い頃からクラシック音楽を学び、1973年に音楽教授の資格を取得。2年間教壇に立った後、演奏活動に転向。
1975年から本格的にミュージシャンとして活躍し、以降リーダーとして60枚以上のアルバムを録音。セッション・ミュージシャンとしても欧米のジャズフェスティバルにも数多く出演を重ね、そのクラシックとジャズをシームレスに融合した演奏スタイルによってイタリアを代表するピアニストとして世界中に知られることとなった。
これまでにジム・ホール(Jim Hall)、マーク・ジョンソン(Marc Johnson)、チャーリー・ヘイデン(Charlie Haden)、ジョーイ・バロン(Joey Baron)、チェット・ベイカー(Chet Baker)といったレジェンドたちと共演。受賞歴も豊富で、1982年に『Isis』で批評家賞、1983年と1989年にMusica Jazz誌のミュージシャン・オブ・ザ・イヤー、1995年に『Flux and Change』で年間ベストCD、1997年にDjango d’Or賞ベスト欧州ミュージシャン、2009年に『Yellow and Blue Suites』でフランス・ジャズアカデミー賞、2015年にTop Jazz 2014生涯賞を受賞している。
Enrico Pieranunzi – piano
Mauro Beggio – drums
Luca Bulgarelli – double bass
Orchestra I Pomeriggi Musicali
Michele Corcella – arrangements and orchestral conducting