ソウルジャズの名手アダム・ダイチ初リーダー作
2000年前後のジャズ系ジャムバンドブームでLuttuceやジョン・スコフィールドのバンドで活躍し名を馳せたドラマー、アダム・ダイチ（Adam Deitch）が自身のカルテット名義で発表した2019年作『Egyptian Secrets』は、注目のオルガン奏者ウィル・ブレイズ（Wil Blades）やLettuceのメンバー、ゲストにもはや伝説的存在となっているギタリスト、ジョン・スコフィールド（John Scofield）も参加した最高にファンキーな一枚だ。
ウィル・ブレイズ作の(7)「Art Bar」、そしてマイケル・ジャクソンのカヴァー(8)「The Way You Make Me Feel」を除き、全曲がアダム・ダイチの作曲。収録曲すべてがスタジオセッションの最初もしくは二番目のテイクが採用されており、録音後のエフェクト処理などは一切行われていない。そのためか作品全編が異常なほどの熱気と生々しさに包まれている（もちろんバンドメンバー全員が卓越した演奏技術を持つからこそ可能な芸当でもあるが…）。
既にドラマーとして20年以上のキャリアを持つアダム・ダイチだが、単独リーダー作はなんと今回が初。アルバムはアーマッド・ジャマルやファラオ・サンダースのバンドなどで活躍したニューオーリンズの伝説的ドラマー、イドリス・ムハマド（Idris Muhammad, 出生名レオ・モリス）に捧げられており、『エジプシャン・シークレッツ』というタイトルもイドリス・ムハマドに因んだもののようだ。
音楽は決してエジプト的ではないが、“エジプトやイスラム文化への憧憬を隠さないファンク”として素直に楽しめば良いと思う。
驚異の人力ドラムンベースも話題になったドラマー
アダム・ダイチ（Adam David Deitch, 1976年4月26日 – ）はアメリカ合衆国コロラド州出身のドラマー/プロデューサー。ジャズやファンク、エレクトロミュージック、HipHopなどジャンルを跨って活躍しており、レタス（Lettuce）やブレイク・サイエンス（Break Science）といったバンドのメンバーとして知られている。
彼のドラム演奏はジャズファンクが基本スタイルだが、ドラムンベースなど打ち込みのリズムを生演奏する神業（特に“人力ディレイ奏法”は圧倒的！）も話題に。
ドラマーとしてだけでなくプロデューサーとしても活躍しており、50 centの「My Gun Go Off」、マティスヤフ（Matisyahu）のアルバム『Light』収録の「Struggla」、レッドマン（Redman）のアルバム『Reggie』収録の「Tiger Style Crane」などなど、ラップ/ヒップホップ界隈の楽曲プロデュースも行ってきた。
ちなみに、アダム・ダイチの「ダイチ」はDeitchと綴り、発音は「ディーチ」に近い。なぜか「ダイチ」表記が定着しているので本記事でもそれに準ずるが、日本語の「大地」とは全く関係がない。
ジョン・スコフィールドの参加も嬉しい
そして今作やはり特筆すべきはジョン・スコフィールド（John Scofield, gt）の参加だろう。アダム・ダイチとジョン・スコフィールドはジョンの2002年の名盤『überjam』の頃から度々共演しているが、今回もこのレジェンドが3曲でゲスト参加し、(7)「Art Bar」などで往年のジョンスコ・サウンドを聴くことができる（残念ながら彼の代名詞であるアウトするフレーズはあまり聴くことができないが…）。
このライヴ映像には残念ながらジョン・スコフィールドは参加していないので、ぜひアルバムバージョンを聴いてもらいたい。
トランペットのエリック・ベニー・ブルーム（Eric “Benny” Bloom）、サックスのライアン・ゾイディス（Ryan Zoidis）はいずれもLettuceのメンバーで、このバンドもやはり正統派ジャズファンクの色が強い。まれにアラビックなフレーズが出てくるあたりはタイトルにあるように“エジプトの秘密”を意識してのことだろうが、活き活きとしたジャズファンク作品として心地良く聴ける一枚だ。
The Adam Deitch Quartet :
Adam Deitch – drums
Wil Blades – organ
Ryan Zoidis – saxophone
Eric Benny Bloom – trumpet
Guests :
John Scofield – guitar (2, 7, 8)
Mike Clark – vocals (13)