Brooklyn Funk Essentials 8枚目のアルバム『Black Butterfly』
1990年代初頭にニューヨーク・ブルックリンで結成されたジャズファンク集団、ブルックリン・ファンク・エッセンシャルズ(Brooklyn Funk Essentials, 略称:BFE)。メンバー変遷を重ねながら30年以上に渡り活動を続ける彼らが、通算8枚目となる新譜『Black Butterfly』をリリースした。ニューヨークのクラブ文化を中心に、ファンク、ヒップホップ、ジャズ、ソウル、レゲエ、ダブ、ラテン音楽、スポークン・ワードなどを自在に混ぜ合わせるグループ初期からの精神性を継承しつつ、欧州出身のメンバーが中心となった多国籍の視点から現代社会の状況を反映したアルバムとなっている。
冒頭の(1)「77 Blackout」は、1977年にニューヨークで起こった大停電1に着想を得た楽曲だ。
真夏の暑い夜に起こり、翌朝まで続いた大停電によりニューヨークの街は大混乱し、その際に多くの暴動や窃盗、放火といった犯罪事件が発生(Wikipediaによると襲撃された店舗は1616店、放火1037件、逮捕者は3776人にのぼったという)したが、このときの略奪行為がニューヨークで台頭しつつあったパンクやヒップホップのミュージシャンたちが音楽機材やDJ機材を入手する機会となり、その後の文化の発展に影響した可能性があるという出来事について描いている。
シングルカットされた(3)「Never Give Up」は、アルバムには7分を超えるフルバージョンで収録されている。この曲の出発点になったのは、2024年にBFE創設者であるアーサー・ベイカー(Arthur Baker)から、創設期からの現在までの中心人物であるラティ・クロンルント(Lati Kronlund)へ渡されたコンガのグルーヴだった。ベイカーはアフロビート的な方向を想定していたようだが、クロンルントはそこからフィラデルフィア・ソウルやブリティッシュ・ソウルの方向へと楽曲を導いた。歌詞の内容も明確なテーマを持ち、社会の分断、貧富の格差、失業などを背景にしながら、「愛と尊重を手放さない」ことの重要性を訴えている。
タイトなグルーヴが最高に心地良い(5)「Come Back 4 Real Love」は、もともとはBFE創設者アーサー・ベイカーが、ラティ・クロンルントと現ヴォーカリストのアリソン・リムリック(Alison Limerick)のために書いた楽曲。BFEが誕生する以前からあった曲だといい、グループにとって歴史的にも重要な意味を持つ楽曲だ。
アルバム・タイトルの「黒い蝶」とは、アメリカの作家オクティヴィア・E・バトラー(Octavia E. Butler, 1947 – 2006)の作品世界にインスパイアされたもので、“変化と全く新しい未来への希望の象徴”なのだという。
BFEは90年代NYの“雑食性”から生まれたバンドだが、欧州(特にスウェーデン)出身者が中心となった現在もファンクを中心にアフロビートやラテン音楽、ソウルなどを取り込みつつ貪欲に成長を続けている。今もなお生々しく渦巻くグルーヴが、その証明だ。
Brooklyn Funk Essentials 略歴
ブルックリン・ファンク・エッセンシャルズは1990年代初頭、ニューヨークのヒップホップ、ジャズ、クラブ・カルチャー、スラム・ポエトリーなどが交差する環境から生まれた音楽集団。プロデューサーのアーサー・ベイカー(Arthur Baker)と、スウェーデン出身のベーシスト/プロデューサーであるラティ・クロンルント(Lati Kronlund)によるスタジオ・ジャム・セッションを起点に結成され、当初から固定的なバンドというより、ミュージシャン、シンガー、DJ、ラッパー、スポークン・ワードの詩人らが流動的に参加するコレクティヴとして活動してきた。
ファンクを核に、ジャズ、ソウル、ヒップホップ、ラテン、レゲエ、ダブ、ハウスなどを自由に融合する独自の音楽性を確立し、1994年のデビュー・アルバム『Cool & Steady & Easy』で国際的な注目を集めた。1998年にはトルコの音楽集団ラチョ・タイファ(Laço Tayfa)と共演した『In The BuzzBag』を発表し、アナトリア音楽とファンクを融合し高く評価されている。
その後も『Make Them Like It』(2000年)、『Watcha Playin’』(2008年)、『Funk Ain’t Ova』(2015年)、『Stay Good』(2019年)、『Intuition』(2023年)と作品を重ね、世界各地のミュージシャンと共演しながら活動を継続。ニューヨークを出発点としながら、ヨーロッパをはじめ世界各地へ活動の場を広げてきた。
2016年からは英国出身のシンガー、アリソン・リムリック(Alison Limerick)がリード・ヴォーカルを担当し、ジャマイカ生まれのギタリスト/ヴォーカリストのデズモンド・フォスター(Desmond Foster)とともに現在の歌唱面を支えている。演奏面ではラティ・クロンルンドがベースと音楽的リーダーシップを担い、ドラマーのハックス・ネッターマルム(Hux Nettermalm)、キーボード奏者のクリストファー・ウォールマン(Kristoffer Wallman)、トロンボーン奏者のエッバ・オースマン(Ebba Åsman)らが現在のサウンドを形成している。
2026年には、8作目のスタジオ・アルバム『Black Butterfly』を発表。ライヴ・イン・ザ・スタジオによる録音を通して、ファンク、ソウル、ジャズ、アフロビート、ディスコ、エレクトロニック・ミュージックなどを横断しながら、愛、尊重、希望、変化をテーマとした音楽を展開している。結成から30年以上を経た現在も、過去の音楽遺産をそのまま再現するのではなく、異なる世代や文化の音楽を取り込みながら進化を続ける国際的な音楽集団である。
Alison Limerick – lead vocals, background vocals
Desmond Foster – guitar, lead vocals, background vocals
Ebba Åsman – trombone, vocals
Jéssica Pina – trumpet, flugel horn, vocals
Loïc Gayot – tenor saxophone, soprano saxophone, flute.
Hux Nettermalm – drums, shekere, tambourine, bells, vibraphone, bongo
Lati Kronlund – bass, guitar, Clavinet, Fender Rhodes, synthesizer, percussion
Kristoffer Wallman – Fender Rhodes, synthesizer, vibraphone
Rickard Valdés – conga, percussion
Sven Andersson – baritone saxophone
Bashiri Johnson – conga (3)
Valentin Kronlund – background vocals (2)
Loïc Gayot – horn arrangement (7)
- 1977年ニューヨーク大停電…1977年7月13日午後9時34分に発生し、翌日の午前7時頃まで続いた北米史上最大の大停電。およそ900万人がこの停電による被害を受け、市民による暴動や窃盗、放火なども発生し、その被害総額は3億ドルとされている。 ↩︎