超弩級のミクスチャーバンド、ピンハス&サンズ
イスラエルのキーボード奏者、オフェル・ピンハス(Ofer Pinhas)率いるピンハス&サンズ(Pinhas & Sons, ヘブライ語:פנחס ובניו)が凄い。
男女ツインヴォーカルが特徴的で、ジャズやプログレ、クラシック、クレズマー、バルカン、ラテン、ブラジルなど幅広いジャンルに影響を受けた独創的かつテクニカルな音楽を展開する驚愕のミクスチャーバンドだ。
2018年にアルバム『מדובר באלבום』(英語表記:About an Album)をリリースしており、これがヘビーローテーション不可避の圧倒的なクオリティで驚いた。
アルバムの幕開け(1)「פרלוד」(ヘブライ語で「プレリュード」の意味)はJ.S.バッハの平均律クラヴィーア曲集の「前奏曲 第1番 ハ長調」をモチーフにしているが、1小節に1音余計な音符があり9拍子になっているし、クレズマー音楽的な奇妙な旋律が加わり無国籍感が漂う。
本作唯一の英語詞で歌われる(2)「Bound」は一癖も二癖もある曲が揃ったアルバムの中では比較的聴きやすい曲だが、随所に複雑なアレンジがごく自然に仕掛けられており聴きごたえがある。
とにかくどの曲も作曲、アレンジ、演奏ともに異様にレベルが高く魅力的だ。
曲はどれも非常に複雑だが、男女のツインヴォーカルやコーラスワークもキャッチーで不思議とポップスのように耳に馴染む。
あらゆる面で音楽のセンスに溢れた稀有なバンドだ。
(6)「מחול הטירוף」はテンションの強いジャジー&ファンキーなハーモニーと、バルカン音楽に影響されたリズム、中東的なメロディーが絡んだキラーチューン。
YouTubeではファンによるコーラス隊やブラス隊を巻き込んだ大興奮のライヴ映像がアップされている。
(7)「דברים שאני שוכח להגיד בהופעות」は人が喋る声に和音やリズムをつけるという、ブラジルの巨匠エルメート・パスコアールでお馴染みの手法を用いた小曲。
(10)「לילה קר」は普段はエレキギターを弾いているギタリスト、バラク・スラー(Barak Srour)によるフラメンコギターをフィーチュアした曲。ゲストシンガーのユヴァル・ビルゴライ(Yuval Bilgorai)と、ノア・カラダヴィドによる情熱的な歌唱が印象的。ヴァイオリンもマヌーシュスウィングのようだ。
そして、ブラジル音楽ファンにはぜひ(12)「כן זה חסר סיכוי」をおすすめしたい。メタラーが好みそうなイントロが終わると曲調はラテンに。複雑さとキャッチーさを併せ持った旋律はブラジル音楽のショーロ、あるいはエルメート・パスコアールの楽曲を彷彿させる。軽快なリズムと早口のヴォーカルが気持ちいい。最後はゲスト参加のブラジルのグループ、バトゥカーダ・アマゾナス(Batucada Amazonas)による打楽器が入り乱れる圧巻のサンバ・アンサンブルで幕を閉じる。
大物とのライヴ共演も。すでにイスラエルでは大注目
今作ではゲストも多く総勢30名ほどが参加しているようだが、コアバンドはNoa Karadavid(ヴォーカル)、Ofer Pinhas(ピアノ、ヴォーカル)、Barak Sober(フルート)、Moshiko Givan(ヴァイオリン)、Daniel Tanchelson(ヴィオラ)、Barak Srour(ギター)、Lior Ozeri(ベース)、Sharon Petrover(ドラム)、Matan Arbel(パーカッション)の9人で、それぞれが素晴らしいテクニックを備えている。
主にリーダーのオフェル・ピンハスによって作曲された複雑かつ緻密な楽曲が、タイトなリズムで見事なアンサンブルに昇華される様は圧巻。ワールドミュージックを聴く醍醐味が詰まった素晴らしい作品だ。
Pinhas & Sons は2016年のアルバム『מטאפורות זולות על אהבה』がデビュー作、今作『מדובר באלבום』は2作目のようだが、これまでに人気ソプラノサックス奏者ダニエル・ザミール(Daniel Zamir)、10代前半の頃に既に“神童”と讃えられた天才ギタリストニツァン・バール(Nitzan Bar)や、イスラエルの大御所シンガーソングライターのシュロモ・グロニフ(Shlomo Gronich)、人気女優/歌手のエステル・ラダ(Ester Rada)と共演するなど、圧倒的な実力で既にイスラエル 国内では高い人気を得ているようだ。
Pinhas and Sons (פנחס ובניו) :
Noa Karadavid – vocals
Ofer Pinhas – piano, vocals
Barak Sober – flute
Moshiko Givan – violin
Daniel Tanchelson – viola
Barak Srour – guitars
Lior Ozeri – bass
Sharon Petrover – drums
Matan Arbel – percussion
2020/6/7 追加記事:Pinhas & Sons インタビュー
私がこの素晴らしいバンドを知ってから、イスラエルのアーティスト本人(Pinhas & Sons のリーダー、Ofer Pinhas)にいろいろと話を聞くことができた。
バンド結成までの逸話、ファンとの繋がりを大切にしたオープンマインドな姿勢、そしてコロナ禍のなかでファンとの繋がりを失わないための工夫など…
バンドの魅力を改めて知ることができたので、下記に記事としてまとめました。ぜひご覧ください。