モロッコ出身、中国で出会った夫婦デュオ Sarah & Ismael 越境的サウンドの初フルアルバム『MANGA』

Sarah & Ismael - MANGA

サラ&イスマイル 初のアルバム『MANGA』

2019年に中国・上海で結成され、数々のシングルヒットで注目されていたモロッコ出身の男女デュオ、サラ&イスマイル(Sarah & Ismael)が、初のフルレンス・アルバムとなる『MANGA』をリリースした。モロッコのローカルな音楽性を基盤としつつ、ポップスやロック、ソウル、さらには中国などアジアを感じさせる音像も交えた、とてもクオリティの高い作品だ。

今作は二人の個人的な経験を音楽に昇華させたもので、悲嘆、自己愛、他者評価、移住、自己同一性、そして帰属意識といったテーマを扱っている。全編がモロッコ中央に位置するアトラス山脈に住むベルベル人によって話されてきたタマジクト語1で歌われており、MVなどではティフィナグ文字での表記も見られる。

彼女らがその親しみやすく個性的な楽曲を通じて問いかけるのは、タマジクト語の音楽がいかにしてその言語的ルーツを保ちつつ、より幅広い聴衆に親しまれる存在となり得るかというアイデンティティに深く根差した問いだ。その根底にあるのは、「自分たちは何者なのか」「何が今の自分たちを形作ったのか」、さらには「何を受け継ぎ、未来へと運んでいくのか」を心に刻み続けたいという切なる願いである。

中国の伝統的な音楽の要素も感じさせる(2)「AYELLI」

様々なジャンルの音楽からの影響を感じさせるが、アルバムを通じて印象的なのはサラ・マジグ(Sarah Mazigh)の美しいヴォーカル、そしてイスマエル・ムサリ(Ismael Moussali)のギターを中心としたサウンドだ。アジア的な雰囲気の(2)「AYELLI」、グナワなど北アフリカの要素の強い(3)「TABRAT」、可愛らしいワルツ(4)「HAN GHZAN」など多種混淆の現代的な音楽性でありながら、根底にはモロッコの伝統的なフォーク・ミュージックがあることがわかる。

北アフリカのリズムに根差した(3)「TABRAT」

タイトル曲である(7)「MANGA」には、モロッコ東部出身の多言語シンガーのリータ・ルージュディア(Rita L’Oujdia)、カサブランカのオルタナティヴ・ラッパーのドンティフ(Dontif)、アマジグ系コラボレーションで知られるシンガーのフロミン(Flomine)が参加。サラ&イスマイルのアマジグ/アフロポップ路線に、現代モロッコのポップとヒップホップの感覚を加えた越境的なコラボレーションとなっている。

(7)「MANGA」

サラ・マジグは自身のInstagramで今作について、「これは単なるデュオによる最後のアルバムではありません。それは、二人の関係と音楽デュオとしての歩みに終止符が打たれる中で経験した、様々な感情や人生の局面を記録した作品です」と語り、デュオの活動は終わったことを示唆している。

Sarah & Ismael プロフィール

サラ&イスマイルは、モロッコ出身のデュオ/バンド。
モロッコ・アガディールで経営学を学んだあと、中国・武漢に留学し国際貿易を学んでいた歌手/ギタリストのサラ・マジグ(Sarah Mazigh)と、モロッコ・タンジェで物流を学び、その後中国語学習のため武漢に1年間滞在していたギター奏者イスマエル・ムサリ(Ismael Moussali)が2016年に武漢で出会い、上海移住と結婚を機に2019年に上海でデュオを結成。ベルベル(アマジグ)文化に根ざしたタマジグト音楽を、アフロポップやエレクトロニック、グローバル・ミュージックの感覚と融合させたサウンドで注目を集めた。

2021年のシングル「AMOUDOU」で広く知られるようになり、その後も「ATLAS」「AYELLI」「MANGA」などの作品を発表。伝統的な旋律やリズムを現代的なプロダクションで再解釈し、モロッコのローカルな音楽文化を国際的なポップ感覚へと接続するスタイルを特徴としている。

2026年には初のフルアルバム『MANGA』をリリース。アマジグ音楽のアイデンティティを保ちながら、アフリカと地中海世界を横断する越境的なサウンドを提示する存在として注目された。

  1. タマジクト語(ティフィナグ文字表記:ⵜⴰⵎⴰⵣⵉⵖⵜ)…北アフリカの先住民族であるベルベル人が話す言語(ベルベル語)の総称、またはその一派。 ↩︎
Sarah & Ismael - MANGA
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