エリザベト・ローマ&リタ・パイエス母娘、新たな境地へ踏み込む傑作2nd
トロンボーン奏者/ヴォーカリストのリタ・パイエス(Rita Payés)と、その母でギタリストのエリザベト・ローマ(Elisabeth Roma)が絶賛された前作『Imagina』(2019年)に続く2作目となるデュオアルバム『Como la Piel』をリリースした。前作はボサノヴァとジャズ、そしてクラシックギターの折衷といったほのぼのとした優しく上質な作品だったが、今作はその路線を継承した曲もありつつも、曲調や世界観は明らかにスケールアップ。サン・アンドレウ・ジャズバンド主宰者のジョアン・チャモロの元を離れたリタ・パイエスは暖かさや優しさだけではない新たな側面も見せ、アーティストとしての表現力の幅を格段に広げた。
(1)「Nunca Vas a Comprender」はリタ・パイエスのオリジナル。ボサノヴァのエッセンスが滴る瑞々しいメロディーを持つ素晴らしい曲で、リタ・パイエスはギターでコードを爪弾きながら歌っている。その歌に寄り添うように絡む母エリザベトのギターもまたテクニック・歌心ともに素晴らしく、前作でも感じた親子の愛情の深さが心に沁み入ってくる。
続く(2)「Doce de Coco」はブラジルの巨匠音楽家ジャコー・ド・バンドリンのショーロ曲のカヴァーで、これもまたこの母娘が得意としてきたスタイルだ。エリザベトの軽快なギターに乗せて、リタの声とトロンボーンが踊る。
(3)「Quien Lo Diría」は古典的なロシアン・ジプシーの歌を彷彿させる短調の楽曲で、後半で徐々に速くなるテンポが激情を駆り立てる。
(5)「Loca Mente」は“狂った精神”を意味する楽曲で、不気味さを漂わせる曲調はこれまでのリタ・パイエスの作品には見られなかったものだ。この独特の雰囲気はリタ・パイエスとの親密なデュオ演奏も披露していたギタリスト/SSWのポル・バトレ(Pol Batlle)のエレクトリック・ギターによる演出の効果も大きい。
(8)「Un Tros D’ahir」にはリタの3歳年上の兄で、Sant Pau Rhum Bandなどで活躍するエウダルド・パイエス(Eudald Payés)がトランペットで参加。母が弾くハバネラのリズムの上で兄妹のトランペット&トロンボーンが豊かなハーモニーを奏でる。
極めつけは(10)「No Digo Que No (Vaca y Pollo)」で、半音進行で上下するテンション・コードや度重なる転調が狂気すら感じさせる。エリザベト・ローマの細かくリズムを刻むガットギター、ポル・バトレのエレクトリック・ギター、そして中間部でのトロンボーンとガットギターのソロの応酬など聴きどころ満載の傑作だ。
母エリザベトへの誕生日プレゼントのプロジェクトとしてスタートした前作『Imagina』での成功を経て、再び母との共演が実現したこの新作はリタ・パイエスにとってアーティストとしての重要なマイルストーンになることは間違いない。
リタ・パイエスとエリザベト・ローマ 略歴
リタ・パイエス・ローマ(Rita Payés Roma)は1999年生まれ。ベーシストのジョアン・チャモロ(Joan Chamorro)が主宰する6歳から18歳までの少年少女で構成されるジャズ楽団、サン・アンドレウ・ジャズバンド(Sant Andreu Jazz Band)出身で、そのジョアン・チャモロのプロデュースのもと2015年に『Joan Chamorro Presenta Rita Payés』でアルバムデビュー。同楽団出身者ではアンドレア・モティス(Andrea Motis)らと共に最も成功したミュージシャンとして注目されている。
リタの母であるエリザベト・ローマ・トーレス(Elisabeth Roma Torres)はクラシックギターのソリストであり音楽教師でもあるが、ラテン音楽やブラジル音楽にも造詣が深く、これまでにヴィクトル・ヴァリュス(Victor Valls)とのギターデュオや、ブラジルのチェリスト、アナ・モレイラ(Ana Moreira)とのデュオ活動などが知られている。
この2人でのデュオ作は2019年の前作『Imagina』に続く2作目となる。
Elisabeth Roma – guitar
Rita Payés – vocal, trombone, guitar
Horacio Fumero – contrabass
Juan Berbín – percussion, drums
Eudald Payés – trumpet (8)
Pol Batlle – electric guitar (5, 10)