ヒップホップからJAZZに目覚めた気鋭鍵盤奏者、UKジャズ先端を行く新譜

Alfa Mist - Bring Backs

プロデューサーとしての突出した才能を見せるアルファ・ミスト新譜『Bring Backs』

ジャズピアニストであり同時にヒップホップのMCでもあるという肩書きを持つミュージシャンを探すことは容易ではないが、ロンドンの鍵盤奏者/SSW/MC/プロデューサーのアルファ・ミスト(Alfa Mist, 本名:Alfa Sekitoleko)は、これまでに2017年のデビュー作『Antiphon』などでそれらを両立する稀有な才能を示し証明してきた数少ないアーティストのひとりだ。彼の音楽は一部の“ジャズファン”が撒き散らす固定観念──未だに50年前のアーティストを崇め、その“死体”をあれこれと掘り起こし探りまわり、老人たちが研究しているようなイメージを持たれ得る「ジャズという音楽ジャンル」の一般的なイメージ──を払拭しアップデートするには絶好のサンプルでもある。

イギリス・ロンドンのジャズシーンは活況を呈している。そのシーンの原動力のひとりである今回の主人公、アルファ・ミストは新譜『Bring Backs』で改めて自身の立ち位置を定義して見せた。

トランペットやサックスやバスクラリネット、チェロや数曲でフィーチュアされるヴォーカルをアルファ・ミストはエレクトリック・ピアノの和音で抱擁する。決して派手な演奏ではないが、空間をつくる重要な仕事。ヒップホップのトラック・メイキングに似た感覚を併せ持つ聴き心地のよいジャズ。ひとたび自身のソロパートになると豊かなハーモニー感覚を活かした音選びも聴かせてくれる。

今作は現在のUKジャズシーンの先鋭が揃ったメンバーも素晴らしい。新世代を代表するギタリストのジェイミー・リーミング(Jamie Leeming)に、(2)「People」では歌唱も披露する女性ベーシストカヤ・トーマス-ダイク(Kaya Thomas-Dyke)、有機的なリズムを叩くドラマーのジェイミー・ホートン(Jamie Houghton)、ジャズとエレクトロの融合を探求するトランペッターのジョニー・ウッドハム(Johnny Woodham)などの演奏は現在のUKジャズシーンを象徴する。
米国の著述家ヒラリー・トーマス(Hilary Thomas)によるポエトリー・リーディングを数曲に散りばめる手法もアルバムの統一感や個性の主張に大きな役割をもたらしており、アルファ・ミストのプロデューサーとしての非凡なセンスを感じさせる。

ジェイミー・リーミングのギターも素晴らしい(1)「Teki」

アルファ・ミストは1991年生まれ。Hi-tek、Madlib、J Dillaなどのヒップホップ音楽に憧れ、彼らのルーツ辿ってジャズに行きつき、自分もその世界に身を置くと決めたという。ラップもピアノも独学、音楽はストリートで学んだ。2017年のデビュー作『Antiphon』の時点で既にジャズとヒップホップを融合した個性を確立。今作『Bring Backs』は自身のレーベルからの初めてのリリースでもあり、クリエイターとしての優れた才能を知らしめる傑作と呼ぶべき類の作品だ。

ライヴ演奏動画。ジャズやクラシックの伝統や基礎に則りつつ、自然と現在の時代感覚を反映した音楽芸術が展開される。

Alfa Mist – electric piano, synth
Jamie Leeming – guitar
Kaya Thomas-Dyke – bass
Junior Alli Balogun – percussion
Jamie Houghton – drums
Johnny Woodham – trumpet
Peggy Nolan – cello
Rocco Palladino – bass
Richard Spaven – drums
Sam Rapley – bass clarinet

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