Música Terra(ムジカテーハ)ライターDJ mitsuが選ぶ2023年のベストアルバム。
基本、当サイトで紹介してきたもの中心ではありますが、取り上げきれなかった作品もここではPick Up。
「何を落としたらいいのか悩む」大豊作の昨年に対し、「何を入れるか悩んだ」今年。
なかなかコレ!というものがなかった年でもありましたが、ここに挙げたのは間違いなく「いい音楽」。
今年1年お世話になった作品を振り返っていきましょう。
- 1 第10位:SOS / SZA(アメリカ)
- 2 第9位:Blue Giant O.S.T / 上原ひろみ(日本)
- 3 第8位:2MM DON’T JUST STAND THERE! / Sideshow(アメリカ)
- 4 第7位:Raven / Kelela(アメリカ)
- 5 第6位:Two Brothers / Chico Pinheiro & Romero Lubambo(ブラジル)
- 6 第5位:That’s Life / EVISBEATS(日本)
- 7 第4位:Get Up / NewJeans(韓国)
- 8 第3位:Into You / Incognito(イギリス)
- 9 第2位:Black Classical Music / Yussef Dayes(イギリス)
- 10 第1位:KARPEH / Cautious Clay(アメリカ)
第10位:SOS / SZA(アメリカ)
作品発表自体は昨年の12月だが、フィジカル発表されたのが今年ということもありセレクト。SZA(シザ)の3作目である本作はタイトル通り、音楽に助けを求めるようなヒリヒリした歌声が心に突き刺さる。
ドイツ滞在中も至る所でヘビロテされていた、まさに今年を象徴する作品のひとつと言っていいだろう。
Pick Up:「Seek and Destroy」
シングル曲ではないものの、本作中最もエモーショナルで印象深い楽曲。自らを許容するようなシングル曲「Good Days」に対し、SZAの苦しみや悲しみの感情が楽曲に強さを与えている。
第9位:Blue Giant O.S.T / 上原ひろみ(日本)
今年公開された大人気JAZZ漫画の劇場版アニメーション『Blue Giant』のサントラ。上原ひろみをはじめ、馬場智章、石若駿など、第一線で活躍するJAZZプレイヤーが実際に演奏をしたサントラとして話題に。本格的なJAZZ演奏を堪能出来るとともに、劇中風景に寄り添う劇伴音楽としても楽しめる良盤だった。
Pick Up:「N.E.W」
上述の3名による熱いセッション曲。馬場智章のサックスに呼応する石若駿のドラムのグルーヴ、更には上原のひろみのピアノが入ってきて楽曲のボルテージは最高潮に。
作品自体もそうだが、「JAZZってこんなにも熱いものだったんだ!」と改めて気づかせてくれる1曲。
最高です。
第8位:2MM DON’T JUST STAND THERE! / Sideshow(アメリカ)
オッド・フューチャー(Odd Future)のアール・スウェットシャツ(Earl Sweatshirt)やアルケミスト(Alchemist)といったアンダーグラウンドHipHop界隈から発表された作品。
トラップなどのギャングスタやパーティーHipHopとは一線を画す世界観と、カニエ・ウエストやタイラー・ザ・クリエイターを思わせる音楽性がHipHopの未来を感じさせてくれた。
Pick Up:「JIH LIKE MORANT」
1分にも満たない曲だが、ソウルフルなサンプリングとそれを乗りこなす巧みなフローで存在感を感じさせた一曲。初期のカニエ・ウエストのような良い意味でのナードさを感じさせる。
第7位:Raven / Kelela(アメリカ)
エチオピア系アメリカ人、ケレラ(kelela)の6年ぶりの2ndアルバムは、デビュー当初から見せていた新人離れした存在感に、芸術性までも兼ね備えた新たなR&B。ビョークやゴリラズも絶賛したという本作。シャーデーにも近い透明感のある静かなボーカルと流れゆく切れ目ないトラックのつなぎに身を委ねれば、一瞬で彼女の世界観に浸ることが出来るはずだ。10位SZAと評価が分かれるところだが、アルバムの全体的な統一感でこちらを上位とした。
Pick Up:「Happy Ending」
平成を思わせる混沌としたクラブ映像とドラムンベース、ケレラのアンニュイな歌い口がとてつもなくエモいダンスナンバー。
今年は各地でドラムンベースの復権が見られたのも印象的だ。
第6位:Two Brothers / Chico Pinheiro & Romero Lubambo(ブラジル)
ブラジル人ジャズギタリスト、シコ・ピニェイロ(Chico Pinheiro)とホメロ・ルバンボ(Romero Lubambo)のデュオ作。
2人の天才がジャズやボッサの名曲から、ビリー・アイリッシュなどのポップアーティストの楽曲まで幅広くカヴァー。
音楽的な目新しさはないが、見知った曲だけに小難しく考えず、ギターの優しい音色と空間に酔いしれることが出来るという意味で今年ヘビロテした安定の一枚。
Pick Up:「Aquele Um」
ジャヴァン(Djavan)の同曲をカバー。ブラジリアンポップスの原曲をギターだけでアレンジ・演奏した結果、ジプシーJAZZのような手触りになるのが面白い。
第5位:That’s Life / EVISBEATS(日本)
今年最も再生したアルバムがこちら。環境音や民謡など日本の音風景を効果的にサンプリングした作品全体の空気感とメッセージは、タイトル通り聴く人の人生を肯定するEVISBEATSらしいポジティブなマインドに溢れている。
国産チルアウトHipHopの文脈においても無視することの出来ない超重要作。
Pick Up:「akirame」
水木しげるのTVインタビューを丸ごとサンプリングした楽曲。水木しげるが語る示唆に富んだ幸福論と、それを邪魔しないどころか更に引き込むEVISBEATSの気の利いたトラックはもはや職人芸の域。
第4位:Get Up / NewJeans(韓国)
正直ここまでとは思わなかった。
もちろん彼女らの楽曲の質の高さは各シングル曲から感じ取ってはいたが、この2ndEPでは2000年前後に盛り上がりを見せた2stepを高い水準で再現。「自らトレンドを作り出すことが出来る」彼女らは、ディスティニーズ・チャイルドなどの伝説的なガールズグループに比肩する存在となった感すらある。
何度再生しても驚きとワクワクが止まらない驚異的な一枚。
Pick Up:「SuperShy」
可愛らしいビジュアルとダンスに隠れてなかなか気づかないが、楽曲はめちゃくちゃカッコいい2step仕様。同じく2stepの「Cool with You」と対極の”陽”の2step。
第3位:Into You / Incognito(イギリス)
インコグニート(Incognito)にとっては4年ぶりの新作であり、自分にとってはかれこれ数十年ぶりのインコグニートサウンドとの再会となった本作。良い意味で全く変わらない良質な音楽と当時とはまた違った体制でのフレッシュな感性が見事に交わった作品。10月末のリリースということで2023年ランキングとしては割りを食った形となったが、当初上位に予定していた作品たちを押し退けてのこの順位は流石の一言。
Pick Up:「Close to Midnight」
マックス・ビーズリー(Max Beesley)のビブラフォンの音色とギターが大人の色気を感じるインストナンバー。こういった大人の音楽に触れながら背伸びをしていた当時を思い出させてくれたという意味で、作品中でも非常に思い入れの深い曲。興味があれば、今の若い子達にも是非こういう音楽に触れていただき、背伸びをしていただきたい。
第2位:Black Classical Music / Yussef Dayes(イギリス)
英国発の天才ドラマー、ユセフ・デイズ(Yussef Dayes)のソロデビューアルバム。トム・ミッシュ(Tom Misch)をはじめ、豪華なゲスト陣もさることながら、その他のコンテンポラリーJAZZを凌駕する圧倒的なグルーヴにやられる。JAZZアルバムというより、最高級のソウルアルバムを聴いているような感覚。
Pick Up:「Black Classical Music」
アルバムの1曲目を飾るとともに本作を象徴する一曲。ものすごい熱量と疾走感、そして中盤のドラムソロと、これだけで名作の誕生を確信。
第1位:KARPEH / Cautious Clay(アメリカ)
R&Bを主戦場にキャリアを始めたコーシャス・クレイ(Cautious Clay)。
元々JAZZの素養を持っていた彼がJAZZレーベルの最高峰であるブルーノートとそこに集う最高のJAZZマンに囲まれたら…という夢のような現実が起きたのがまさに2023年という年だった。
ネオソウルのような手触りもあり、どことなくジョン・レジェンドのような雰囲気もあるものの、圧倒的な生音の質の良さはまさにブルーノートのそれであり、これはJAZZであると物語る。
今年はミシェル・ンデゲオチェロもブルーノートから新作を発表し、記事でも取り上げたが、それすらも霞んでしまうほど素晴らしい作品だった。
Pick Up:「The Tide is My Witness」
タイトなドラムとサックスが鳴り響く中、スッと入ってくるコーシャス・クレイのボーカルがとにかくクール。R&BでもなくJAZZでもない、まさにコーシャス・クレイの音楽が生まれた瞬間を感じることの出来る一曲。
いかがでしたでしょうか。
2ステップの復権とブルーノートからのリリースが目立った今年。
一年を通して見るとこうしたトレンドのようなものが見えてくるのも非常に興味深い。
また、正直1〜3位はどれが1位になってもおかしくなく、好みによってここの順位は変わってくるのだろうと思われます。
来年はまたどんな「いい音楽」と出会えるのか。
これからもMúsica Terra(ムジカテーハ)およびTwitterにて発信をしてまいりますので、皆さんの音楽ライフの一助になれば幸いです。では!
DJ mitsu