バークリーで出会った3人の若手音楽家による多国籍ジャズ
バークリー・グローバル・ジャズ・インスティテュート(Berklee Global Jazz Institute)1で出会った3人──米国出身のピアニストのチェイス・モリン(Chase Morrin)、キプロス出身の打楽器奏者ジョージ・ラーニス(George Lernis)、パレスチナ出身のチェロ奏者ナシーム・アラトラシュ(Naseem Alatrash)による新作アルバム『Ize Trio: Global Prayer』は、各地の伝統音楽を取り込みながらますますグローバルに多様化してゆく現代ジャズの中にあって、その独自性から一際興味の惹かれる作品だ。
トリオが2024年のデビュー作『The Global Suites』で提示した、ジャズ、西洋クラシック、アラブ音楽(マカーム)、東地中海音楽の融合をさらに深化させながら、社会的テーマ中心だった前作に対し、本作ではそのベクトルは祈りや精神性といった、より内面的な世界へと向かっている。作品全体で意図的に常套句的な音楽表現は避けられており、スピリチュアルで抽象的な世界観が広がるが、ゲストも含めそれぞれのルーツが自然と表現の中に組み込まれており、退屈さを感じることはない。
アルバム冒頭の(1)「Flying」は、トリオの特徴を端的に表している。
一般的なピアノトリオのダブルベースの役割はナシーム・アラトラシュによるチェロがこなしつつ、彼はピッツィカート(指弾き)とアルコ(弓弾き)を自在に行き来し、低音を弾いたり印象的なシークエンスのようなフレーズを弾いたりと、ピアノにもしっかりと絡みつつ独創的な立ち回りで演奏の核を作ってゆく。打楽器奏者ジョージ・ラーニスもおそらくはドラムセットに座りながらレク(アラブ音楽で用いられるタンバリン)やダラブッカを叩くなど、ルーツの伝統に根ざした表現で魅了する。
ゲストにも注目したい。
世界最高峰のベーシストであるジョン・パティトゥッチ(John Patitucci)が(2)「From the Stars」に参加。また、この曲にはイスラエル出身のサックス奏者リーヒ・ハルヴィ(Lihi Haruvi)も参加する。
(4)「Snæfellsjökull」では、ギリシャ出身のヴァシリス・コスタス(Vasilis Kostas)がリュートに似た撥弦楽器ラウトを弾き、イスラエル出身のヤニヴ・ヤコビー(Yaniv Yacoby)がブズーキを、イラク出身のライス・シディク(Layth Sidiq)がヴァイオリンを弾いている。タイトルはアイスランド語で、楽曲はアイスランドの氷河をモチーフにした“人生の挑戦”のメタファー。東地中海・中東をルーツに持つミュージシャンたちの共演は、アルバムタイトル「Global Prayer」にも通じてゆく。
(7)「Jam for the End of the World」は、分断された世界の終焉を嘆くのではなく、混迷する社会でも今もなお音楽を奏で続ける、という彼らの平和への痛切な願いが込められている。
Ize Trio :
Chase Morrin – piano
George Lernis – percussion, drums
Naseem Alatrash – cello
Guests :
John Patitucci – double bass (2)
Lihi Haruvi – sopranino saxophone (2)
Vasilis Kostas – lauto (4)
Yaniv Yacoby – bouzouki (4)
Layth Sidiq – violin (4)
- バークリー・グローバル・ジャズ・インスティテュート(Berklee Global Jazz Institute)…バークリー音楽大学が有するプログラムのひとつ。パナマ出身のピアニスト、ダニーロ・ペレス(Danilo Pérez)が音楽総指揮を務めている。 ↩︎