アミルトン・ヂ・オランダ率いる最強トリオの最終形態的アルバム『NOVA』
バンドリンに革命をもたらしたアミルトン・ヂ・オランダ(Hamilton de Holanda)率いるスーパートリオが、新作『NOVA』をリリースした。
本作は、2023年作『Flying Chicken』でショーロとジャズを超絶的な創造性で統合、唯一無二の“現代ブラジリアン・ジャズ”を提示し、そして『Live in NYC』(2025年)でラテングラミー賞の「最優秀ラテン・ジャズ/ジャズ・アルバム」を受賞したこのトリオの(現時点での)完成形であり、そして多数の才能ある国際的なコラボレーターの参加によって“究極形”とも思えるクオリティに到達した、恐るべき作品だ。
今作のコアトリオは前述の作品群同様、ドラマーのチアゴ・ハベーロ(Thiago Rabello)と、ピアニストのサロマォン・ソアレス(Salomão Soares)。現代ブラジリアン・ジャズを代表するこの二人とのトリオだけを見ても十二分の訴求力なのだが、今作はゲストの充実も半端ない。様々なバックボーンを持ったこれらゲストの参加が、アルバムをより一層楽しいものにしている。
まず、冒頭の(1)「Nova alvorada」に参加するのがブラジルの若きスーパー・ベーシストのミシェル・ピポキーニャ(Michael Pipoquinha)と、キューバ出身の打楽器奏者ペドリート・マルティネス(Pedrito Martinez)。ペドリートによって楽曲自体は随分とキューバ方面の音楽性に引っ張られるが、ピポキーニャの上手すぎるベースソロやサロマォンのピアノソロも次々繰り出され、極彩色のラテン・ジャズの傑作と呼ぶに相応しい最高のオープニングとなっている(コーラスに参加する面子もタチアナ・パーハ、ヴァネッサ・モレーノ、ダニ・グルジェルというブラジルを代表するシンガーが勢揃い)。
派手なブラス・セクションによって今作でもっとも印象的な楽曲となる(3)「Nasci」および(4)「Som de baile」には、サックス奏者エドゥアルド・ネヴィス(Eduardo Neves)、トランペット奏者アキレス・モライス(Aquiles Moraes)、トロンボーン奏者はハファエル・ホーシャ(Rafael Rocha)が参加。活気あるこの2曲は、今作の華やかさを強く印象付ける。
つづく(5)「Mono no aware」では、伝説的パーカッショニストのパウリーニョ・ダ・コスタ(Paulinho da Costa)と、若手最高峰ギタリストのペドロ・マルチンス(Pedro Martins)をフィーチュア。タイトルは日本語の「もののあはれ」で、楽曲にも移ろいゆくものに対するある種の愛しい情感が表れている。
(6)「Frio lá fora」には特殊な“微分音トランペット”でお馴染みのレバノン系フランス人イブラヒム・マアルーフ(Ibrahim Maalouf)と、ブラジルのパーカッション/カヴァキーニョ奏者プレチーニョ・ダ・セリーニャ(Pretinho da Serrinha)が参加(ここでのイブラヒムはアラビックな微分音を封印しているため“彼らしさ”はあまり感じられないのが残念ではある)。
(8)「Pras crianças」は、アミルトン・ヂ・オランダがそのキャリアの初期に兄で7弦ギター奏者のフェルナンド・セーザル(Fernando César)とのデュオで発表したアルバム『Dois de Ouro』(2000年)に収録されていた曲の再録だ。今作ではシタール奏者アヌーシュカ・シャンカール(Anoushka Shankar)をフィーチュアしており、共鳴弦の響きも美しいシタールによるエキゾティックな響きと、端正なバンドリンの鉄弦の響きとの対比も聴きどころとなっている。
(12)「Choro Fado」は、2022年作『Maxixe Samba Groove』の冒頭でヴァリジャシュリー・ヴェヌゴパル(Varijashree Venugopal)が歌っていた曲の再録だ。ヴァリジャシュリーの歌唱によってインド風味が強調されていた楽曲だが、今作ではより前衛的ジャズの色合いが強くなり、特にサロマォン・ソアレスがエレクトリック・ピアノで奏でる狂気めいた和音と、アミルトンの驚くべき瞬発力によって魔術的な生まれ変わりを見せている。
Hamilton de Holanda プロフィール
アミルトン・ヂ・オランダは、1976年ブラジル・リオデジャネイロ生まれ。5歳からバンドリンを始め、幼い頃からショーロの名手たちにその才能を認められた。現在ではブラジルを代表するバンドリン奏者、作曲家、編曲家として、ショーロを軸にジャズやクラシック、サンバ、フォホーなど多彩な音楽を融合させた独自のスタイルを確立。世界各地で演奏活動を行い、ブラジル音楽を国際的な舞台へと押し上げてきた。
彼が音楽史に残る存在とされる最大の理由は、バンドリンという楽器そのものに革命をもたらしたことにある。従来のブラジルのバンドリンは8弦が主流だったが、アミルトンは低音弦を加えた10弦バンドリンを実用化し、自らのメイン楽器として発展させた。音域が広がったことで、従来は旋律中心だったバンドリンに豊かな和声や低音表現が加わり、ジャズの即興演奏や複雑なコードワークにも対応できる現代的なソロ楽器へと進化。その革新はブラジル中の奏者に影響を与え、今日では10弦バンドリンは彼を象徴する存在となっている。
演奏は超絶技巧で知られる一方、技巧を誇示するのではなく、歌心やリズム、アンサンブルを何より重視するのもアミルトンの魅力だ。ショーロの伝統を深く尊重しながらも、その枠にとどまることなく、ジャズ、ラテン音楽やクラシック、さらには中東やアフリカ、インドの音楽まで柔軟に取り入れ、ショーロを21世紀の音楽として再定義してきた。その功績から、20世紀にショーロのバンドリン奏法や役割を確立させたジャコー・ド・バンドリン(Jacob do Bandolim, 1918 – 1969)に対し、アミルトン・ヂ・オランダは21世紀のバンドリンを切り拓いた革新者として語られることも少なくない。
これまでにブラッド・メルドー(Brad Mehldau)、チック・コリア(Chick Corea)、ゴンサロ・ルバルカバ(Gonzalo Rubalcaba)、ウィントン・マルサリス(Wynton Marsalis)、イブラヒム・マアルーフ(Ibrahim Maalouf)など、ジャンルや国境を越えた数多くのアーティストと共演。ラテン・グラミー賞を5度受賞し、2025年にはゴンサロ・ルバルカバとの共演作『COLLAB』がグラミー賞「Best Latin Jazz Album」にノミネートされるなど、ブラジルのみならず世界のジャズ・シーンでも高い評価を得ている。30枚を超えるリーダー・アルバムを発表しながら、今なお新たな表現に挑み続ける、現代ブラジル音楽を代表する音楽家の一人だ。
Hamilton de Holanda – bandolim, chorus
Thiago Rabello – drums, percussion, programming
Salomão Soares – keyboards, synthesizers, chorus
Guests :
Michael Pipoquinha – bass (1)
Pedrito Martinez – percussion, vocal (1)
Tatiana Parra – chorus (1, 10)
Vanessa Moreno – chorus (1, 10)
Dani Gurgel – chorus (1, 10)
Gabriel de Holanda (1, 10)
Eduardo Neves – saxophone (3, 4)
Aquiles Moraes – trumpet (3, 4)
Rafael Rocha – trombone, horn (3, 4)
Larissa Umaytá – percussion (4)
Pedro Martins – guitar (5)
Paulinho da Costa – percussion (5)
Ibrahim Maalouf – trumpet (6)
Pretinho da Serrinha – percussion (6)
Leander Motta – percussion (7, 8)
Anoushka Shankar – sitar (8)
Paulo Flores – vocal (9)
Zélia do Prato – vocal (11)