イタリア最高峰ピアニスト、エンリコ・ピエラヌンツィ名盤『Racconti mediterranei』

Enrico Pieranunzi - Racconti mediterranei

ピアノ、クラリネット、ベースの変則トリオによる名盤

イタリアのピアニスト/作曲家エンリコ・ピエラヌンツィ(Enrico Pieranunzi)が変則ピアノトリオで録音した2000年のアルバム『Racconti mediterranei』を聴き返している。サルヴァドール・ソブラルが2017年のユーロビジョン・ソングコンテストの授賞式で無邪気に言い放った言葉を借りれば、“内容のほとんどない、使い捨ての無意味な音楽が蔓延するこの世界”なのだからこそ、ときどきはこういう本物の音楽に立ち返り、体の芯から暖かく沸き立つような人間らしい感情の震えに身を任せたくなるのだ。

本作はピアノのピエラヌンツィのほか、クラリネットのガブリエーレ・ミラバッシ(Gabriele Mirabassi)、そしてダブルベースのマーク・ジョンソン(Marc Johnson)によるトリオ作品。収録曲はすべてピエラヌンツィの作曲によるもので、(3)「Canto nascosto」、(9)「Un’alba dipinta sui muri」、(11)「Canzone di Nausicaa」といった過去作収録曲の再演も含まれている。ピエラヌンツィのピアノの右手とミラバッシのクラリネットが主に(絡まり合いながら)主旋律を担い、美しく感傷的な即興を随所に交える。マーク・ジョンソンは低音で2人を優しく語りかけるように支える──ドラムレスのトリオだからこその耽美な“地中海ジャズ”だ。

どの曲も限りなく美しいが、白眉は(1)「Kingdom」と、今作が初出でその後ピエラヌンツィの代表的な1曲となった(2)「Les amants」だろう。このオープニングの2曲は、音楽や楽器の演奏というものが、人生にどれほど豊かな恵みをもたらしてくれるかの確固たる証明だ。ただ心を無にしてこれらの音楽と向き合う時間をどれだけ作れたかが、私にとって人生の充足を計る重要な指標のようなものに感じられるほどに素晴らしい。つづく(3)「Canto nascosto」は限りなく哀しい感情を呼び起こすが、その感傷は心を洗ってくれる。

(2)「Les amants」

アルバムタイトル「Racconti mediterranei」は「地中海の物語」の意味。
これは単に地中海的なジャズというだけではなく、ジャズ、クラシック、室内楽、イタリアの民俗的な旋律感覚を、ピエラヌンツィ独自の叙情性によって結びつけた名盤だ。ピアノ、クラリネット、ベースという珍しい編成ならではの、繊細で透明感のある音世界に浸る。

Enrico Pieranunzi 略歴

ピアニスト/作曲家のエンリコ・ピエラヌンツィは1949年イタリア・ローマ生まれ。ジャズギタリストの父の影響で幼い頃からクラシック音楽を学び、1973年に音楽教授の資格を取得。2年間教壇に立った後、演奏活動に転向した。
1975年から本格的にミュージシャンとして活躍し、以降リーダーとして60枚以上のアルバムを録音。セッション・ミュージシャンとしても欧米のジャズフェスティバルにも数多く出演を重ね、そのクラシックとジャズをシームレスに融合した演奏スタイルによってイタリアを代表するピアニストとして世界中に知られることとなった。

これまでにジム・ホール(Jim Hall)、マーク・ジョンソン(Marc Johnson)、チャーリー・ヘイデン(Charlie Haden)、ジョーイ・バロン(Joey Baron)、チェット・ベイカー(Chet Baker)といったレジェンドたちと共演。受賞歴も豊富で、1982年に『Isis』で批評家賞、1983年と1989年にMusica Jazz誌のミュージシャン・オブ・ザ・イヤー、1995年に『Flux and Change』で年間ベストCD、1997年にDjango d’Or賞ベスト欧州ミュージシャン、2009年に『Yellow and Blue Suites』でフランス・ジャズアカデミー賞、2015年にTop Jazz 2014生涯賞を受賞している。

Enrico Pieranunzi – piano
Gabriele Mirabassi – clarinet
Marc Johnson – double bass

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