ジャズ、ヒップホップ、クラシック、プログレの間を自在に流れる幾何学的な音楽。Claudio Vignali『Flow』

Claudio Vignali - Flow

イタリアのピアニスト、クラウディオ・ヴィニャーリ新譜『Flow』

イタリアのピアニスト/作曲家クラウディオ・ヴィニャーリ(Claudio Vignali)が、新譜『Flow』をリリースした。ピアノ、8弦エレクトリック・ギター、ドラムスという編成を軸とし、奇数系変拍子やラップなどを取り入れた非常にクオリティの高いコンテンポラリー・ジャズ作品となっている。

基本となるトリオはピアノのヴィニャーリのほか、8弦ギター/ライヴ・エレクトロニクスのフランク・マルティーノ(Frank Martino)、ドラムスのマルコ・フラッティーニ(Marco Frattini)。一般的なピアノ・トリオのベースにあたるポジションを8弦ギターが担うことで、低音域を確保しながら、ギターらしい鋭いアタックやエフェクトを用いた音響まで扱えるのがこの編成の面白さだ。マルティーノはミックスも担当しており、ヴィニャーリのアコースティック・ピアノと電気的なギター・サウンドを対置させながら、フラッティーニの細かく変化するリズムを含めて一つのアンサンブルにまとめている。

さらに4曲では、デヴォン・マイルズ“メッセンジャー・オブ・ライト”(Devon Miles “Messenger of Light”)のラップをフィーチュア。この組み合わせ自体は今回初めて試みられたものではなく、ヴィニャーリ、マルティーノ、フラッティーニ、マイルズによる「Flow」プロジェクトは少なくとも2022年にはライヴで活動していた。ジャズの即興性とヒップホップのフロウを長期間かけて同じアンサンブルのなかに馴染ませてきたことが、アルバムの完成度にもつながっている。

冒頭の(1)「Flow Bark」から、その特徴は明確だ。幾何学的な7拍子の器楽パートから、デヴォン・マイルズのラップのパートでは4拍子となるが、この4拍子のパートでもメトリック・モジュレーションにより楽曲に絶妙な変化を折り込ませる。つづく(2)「A Flower on Mars」でもラップを単なるゲスト・ヴォーカルとして配置するのではなく、ピアノやドラムスと細かな応答を繰り返しながら楽曲を組み立てている。ここでも変拍子を多用しながら、拍子の複雑さそのものを前面に出しすぎず、抒情的な側面も見せるなど構成も凝っている。

(1)「Flow Bark」

アルバムのなかで異なる質感を持つのが(3)「Believe」だ。ゲストとしてフィーチュアされた米国出身のグレッチェン・パーラト(Gretchen Parlato)のヴォーカルに、ヴァレリア・マニャーニ(Valeria Magnani)のヴァイオリン、ジュリア・コスタ(Giulia Costa)とエンリコ・フェッリ(Enrico Ferri)のチェロが加わる。グレッチェン・パーラトは5拍子のリズムに乗せて抑制された歌唱を見せ、ストリングスのアレンジは全体を柔らかく抱擁するように包みこみ、複雑なリズムの印象を和らげている。

(3)「Believe」

イントロとなる小品を挟んで始まる(6)「Crazy Bird」では再びトリオとデヴォン・マイルズの編成に戻り、(7)「This Is Not My War」では戦争や暴力への拒絶を主題とする。最終曲(8)「A Beautiful Dream」ではセレーナ・ザニボーニ(Serena Zaniboni)による祈りにも似た声を加え、それまでの複雑なリズムや強いアタックから距離を置いた静かな着地を見せる。

『Flow』というアルバムタイトルが表現しているのは、ジャンル間を流れるように行き来することだけではなさそうだ。ヴィニャーリは作品全体を、混沌や痛み、欲望、希望といった異なる状態を通過していくひとつの流れとして構成する。そのコンセプトを支えているのが、ジャズ、ヒップホップ、エレクトロニクス、室内楽的な弦の響きを同じ作品のなかで扱えるトリオの柔軟性だ。

Claudio Vignali プロフィール

クラウディオ・ヴィニャーリは、イタリア出身のジャズ・ピアニスト/作曲家。8歳頃からピアノを弾き始め、フェラーラとアドリアの音楽院でクラシック・ピアノとジャズを学び、いずれも最高評価・優等で卒業した。2011年にはクラシック部門のLions Italiaコンクールで優勝。2013年には世界各国から選出された30歳以下のピアニスト10名による「Parmigiani Montreux International Jazz Piano Solo Competition」で第3位に入賞している。

これまでにデイヴ・ウェックル(Dave Weckl)、ジョー・ロック(Joe Locke)、ロブ・マズレク(Rob Mazurek)、エイヴィン・オールセット(Eivind Aarset)、ファブリツィオ・ボッソ(Fabrizio Bosso)、グレッチェン・パーラト(Gretchen Parlato)らと共演。ソロからトリオまで幅広い編成で活動し、日本を含む各国で演奏を重ねている。現在はトリノのジュゼッペ・ヴェルディ音楽院でジャズ・ピアノ教授も務める。

Claudio Vignali – piano
Frank Martino – 8-string guitar
Marco Frattini – drums

Guests :
Devon Miles “Messenger of Light” – rap (1, 2, 6, 7)
Gretchen Parlato – vocal (3)
Valeria Magnani – violin (3)
Giulia Costa – cello (3)
Enrico Ferri – cello (3, 4, 8)
Serena Zaniboni – voice (8)

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