世界の音楽が交わるカルト的レアグルーヴ! スペインの音楽家アントニウスが探る、ジャズの起源と可能性

Anthonius - Origen

異なる文化の旋律とリズムを結び、人類の共通言語を探る『Origen』

スペインの鍵盤奏者/プロデューサー、アントニウス(Anthonius)による新作『Origen』が、彼自身が創設したマドリードのレーベル、トコノマ・レコード(Tokonoma Records)からリリースされた。2023年の『Goshinboku』以来となるアルバムで、モーダル・ジャズやスピリチュアル・ジャズを軸に、エジプト、エチオピア、カーボベルデ、ブラジル、カリブ海地域、アンダルシアなど、世界各地の音楽文化から影響を受けた7曲を収録している。

副題は「Una Exploración por el Jazz Modal de los Trópicos(熱帯のモーダル・ジャズを探求する)」。その言葉が示すように、本作の関心はジャズというジャンルの内部にとどまらず、地域や文化を越えて音楽が交わる可能性へと向けられている。様々なジャンルの音楽が要素として混在するが、アルバム全体を通じてサウンドには「レアグルーヴ」に通じるカルト的高揚感がある。

(2)「Afrikanu」

モーダル・ジャズは、特定の旋法(モード)を基盤に、旋律や響きの変化、即興演奏の自由な展開を重視する音楽的なアプローチだ。こうした手法は、独自の音階や旋律体系を持つ世界各地の伝統音楽との接点を探るうえでも興味深い。アントニウスはこの共通項を手がかりとし、異なる土地に育まれた音楽をひとつの作品のなかへと結びつけていく。

制作の中心を担うのは、作曲/ピアノ/キーボード/編曲/プロデュース/ミキシングまでを手がけるアントニウス自身。サックス/クラリネット/フルートと木管楽器全般を演奏するエドゥ・ポンス(Edu Pons)が音楽的な彩りを加え、(2)「Afrikanu」にはシチュアサウンド(Situasound)がヴォーカルとギターで、(5)「Língua Do Amor」にはジョアナ・モライス(Joana Morais)がボーカルで参加している。

(5)「Língua Do Amor」

曲名にも作品の広がりが表れている。
エジプト西部のオアシスを想起させる(3)「Vientos De Siwa」、ポルトガル語で「愛の言語」を意味する(5)「Língua Do Amor」、そしてビバップとアンダルシアの文化的遺産を結びつけるような(7)「Bebop Andalusí」。それぞれのタイトルが異なる土地や文化を指し示し、アルバムをひとつの音楽的な旅として印象づける。

本作のクリエイティヴな面白さは、それぞれの伝統に由来する要素を、ジャズの即興性や現代的な編曲と結びつけていることだと思う。異なる文化をひとつの様式に均質化するのではなく、それぞれの文化の根源を尊重しながら、現代ジャズとのあいだに生まれる響きや対話の可能性を探ろうとする感性が垣間見える。『Origen』というタイトルは、スペイン語で「起源」や「源」を意味する。本作が見つめているのは、文化の違いを越えて人間を結びつけるもの、そして私たちが共有する起源への再接続だ。音楽を通じて異なる土地の歴史や感覚に触れることは、自分たちとは異なる文化を知ると同時に、人間に共通する感情や表現のあり方を考えることにもつながる。

世界の音楽が交差する場所から、音楽の根源にあるつながりを探る。本作は、ジャズをひとつの開かれた言語として捉え、その可能性を大陸横断的な視点から探求する素晴らしい作品だ。

Anthonius プロフィール

アントニウス(Anthonius, 本名:Antonio Chávez)は、スペイン・マドリードを拠点とするセレクター/音楽プロデューサー/作曲家/ミュージシャン/教育者。1979年生まれ。世界各地の伝統音楽や民俗音楽を、ジャズ、ソウル、ハウス、アンビエント、エレクトロニック・ミュージックなどと結びつけ、文化の境界を越える音楽表現を探求している。

2020年、レコードレーベル Tokonoma Records を設立。日本の伝統家屋に設けられた「床の間」に由来するレーベル名には、盆栽の手入れに通じる忍耐と細部への配慮を音楽制作にも生かすという理念が込められている。世界各地の音楽家やヴィジュアル・アーティストと協働し、埋もれた民俗音楽の魅力を現代的な電子音響と結びつける作品を発表してきた。

2020年のデビュー作『Itoigawa』では、ギニア出身の歌手・打楽器奏者ティディアネ・カマラ(Tidiane Camara)とアブバカル・シラ(Aboubakar Syla)と共演。西アフリカの音楽的伝統を、1980年代を思わせるエレクトロニック・サウンドやアフロポップへと再構成した。続く『Goshinboku』(2023年)では、南アフリカの音楽家シブシレ・クサバ(Sibusile Xaba)らを迎え、アフリカの音楽やキューバ音楽などを想起させるリズムと、アコースティック楽器、電子音響を融合させている。

2026年の『Origen』では、モーダル・ジャズやスピリチュアル・ジャズを軸に、エジプト、エチオピア、カーボベルデ、ブラジル、カリブ海地域、アンダルシアなど多様な音楽文化を横断。ピアノを中心に作曲、編曲、プロデュース、ミキシングまでを手がけ、異なる伝統のあいだに生まれる音楽的な対話を追求している。

DJとしての選曲活動から、オリジナル作品の制作、レーベル運営まで、その活動は幅広い。世界各地の音楽を現代的な感性で再解釈し、地域に根差した音楽文化の新たな可能性を提示する音楽家である。

Anthonius – composition, piano, keyboards, arrangements, production, mixing
Edu Pons – saxophones, clarinets, flutes
Joana Morais – vocals (5)
Situasound – vocals, guitar (2)

Anthonius - Origen
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