シンガー/トランペッター、Mandisi Dyantyis がデビュー作で見せた気迫

Mandisi Dyantyis - Somandla

南アフリカのSSW/トランペット奏者、マンディシ・デャンティス

稀有な才能をもった南アフリカのSSW/トランペッターのマンディシ・デャンティス(Mandisi Dyantyis)のデビュー盤『Somandla』(2018年)。彼は8歳からトランペットを始め、クラシック音楽やゴスペルなどの影響も受けたアフロジャズの新たな天才だ。
特徴的なメロディーライン、リチャード・ボナのようにソウルフルで包容力のある歌声、丁寧だが圧倒的な表現力で聴かせるトランペット、どれもスケールが並外れ。
これまでにも映画や舞台音楽などで作曲を担当してきた経験などがあるようだが、本作ではソロアーティストとしての魅力が遺憾なく発揮されている。

彼の歌は世界的にも珍しい吸着音(クリック音)が特徴的なコサ語で歌われている。テーマは愛や喪失、社会問題、充足感と閉塞感の探究など。たとえば(2)「Kuse Kude」で歌われているのは性犯罪問題だ。南アフリカでは女性の4人にひとりがレイプの被害を受けた経験があると言われているが、加害者側の検挙率は低い。被害者の時計はその瞬間に止まってしまうが、加害者はその事件が明るみに出ない限り、日常の生活を続けている。マンディシ・デャンティスはそうした残虐行為を無視する社会を嘆き、強く批判している。

アルバムはトランペット、テナーサックス、ベース、ドラムス、ピアノのクインテット編成で演奏されるが、ピアノは3人のピアニストが曲ごとに交代して弾いている(そのほかのパートの演奏者は固定)。前述の(2)「Kuse Kude」やミュージックヴィデオも制作された(9)「Somandla」では現在南アフリカでもっとも注目されるピアニストのひとり、ボカニ・ダイアー(Bokani Dyer)がピアノを担当。どうしてもマンディシ・デャンティスの才能に目が行きがちな作品だが、バンドも相当な強者揃いで楽しませてくれる。

(9)「Somandla」のMV。
(10)「Molo Sisi」のライヴ演奏。

Mandisi Dyantyis – vocals, trumpet
Buddy Wells – tenor saxophone
Sean Sanby – bass
Lumanyano Unity Mzi – drums
Andrew Lilley – piano (5, 6)
Blake Hellaby – piano (3, 4, 10, 11, 13)
Bokani Dyer – piano (2, 8, 9, 12)

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