ロンドンの気鋭サックス奏者サム・ブレイシャー、トリオで魅せる理知的なジャズ

Sam Braysher - Dance Little Lady, Dance Little Man

サム・ブレイシャー新譜、サックス/ベース/ドラムスでの表現の追求

マイケル・ケイナン(Michael Kanan)とのデュオで演じられたデビュー作『Golden Earrings』(2017年)から4年、東ロンドン生まれの気鋭サックス奏者サム・ブレイシャー(Sam Braysher)の2ndアルバムがリリースされた。

今作『Dance Little Lady, Dance Little Man』はトリオ編成で、なんとドラムス/鍵盤打楽器にブラッド・メルドー・トリオで知られるホルヘ・ロッシ(Jorge Rossy)が参加。ベースはロンドンを拠点に活動するジャズカルテット、Empirical のメンバーのトム・ファーマー(Tom Farmer)が務めている。

アルトサックス、ベース、ドラムスでのトリオ演奏は基本的にコード楽器が存在しないということもあり、静かでリラックスしたムードのアンサンブルがとても心地いい。サム・ブレイシャーのアルトサックスの音色は過剰なビブラートもなく素直で理知的な印象だ。
ドラマーのホルヘ・ロッシはビリー・ホリデイの歌唱で知られるスタンダード(4)「Some Other Spring」ではヴィブラフォンを、そしてリチャード・ロジャース作曲のミュージカル『南太平洋』からの(10)「This Nearly Was Mine」ではマリンバを演奏しており、アルバムにそっと花を添える。

収録曲はあまり知られていない曲も含めほぼカヴァー曲で、(5)「Pintxos」が唯一のサム・ブレイシャーによるオリジナル。よく知られた曲としてはアントニオ・カルロス・ジョビンの(3)「One Note Samba」があるが、この編成のトリオで取り上げるには意外性があり(なにしろテーマのメロディは最小限の音しか使われていないから)、どんなアレンジが施されているかと聴いてみれば、ベースが減5度の音程と半音下降進行を組み合わせた斬新な解釈だった。これは和音楽器がないことを逆手にとり、コードに縛られない自由なベースラインという発想を生んだものと言えるかもしれない。アドリブパートに入ると途端にサックスが様々なスケールを吹き暴れ出すのもテーマの対比として楽しい。

A.C.ジョビンの名曲(3)「One Note Samba」

サム・ブレイシャーは1989年生まれのアルトサックス奏者。ロンドンの名門、ギルドホール音楽演劇学校で学び2011年に優等学位で卒業。
演奏スタイルは初期のジャズやモダンジャズ、より現代的なジャズまで幅広い。ジャズ研究家としても知られる彼は、特にあまり知られていない楽曲を探求することに強い関心を抱いており、歌詞も含め可能な限りオリジナルの素材を深く学び研究することで自身の演奏に反映させている。彼の演奏は一見あっさりしたものに聴こえるが、古い素材を独自の深みのある解釈で現代に蘇らせる魔術師のようでもある。

(2)「Heart & Soul」はホーギー・カーマイケル作曲、 フランク・レッサー作詞の1930年代に生まれた曲。
1960年代頃まで、多くのミュージシャンによって演奏されていた。

Sam Braysher – alto saxophone
Tom Farmer – double bass
Jorge Rossy – drums, vibraphone (4), marimba (10)

Sam Braysher - Dance Little Lady, Dance Little Man
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