あらゆる世界に跨る巨木セイバのように。過去・現在・未来を繋ぐサイモン・ムーリエ新譜『Ceiba』

Simon Moullier - Ceiba

ヴィブラフォン奏者サイモン・ムーリエ新譜『Ceiba』

フランス出身のジャズ・ヴィブラフォン奏者、サイモン・ムーリエ(Simon Moullier)が早くも6作目となるアルバム『Ceiba』をリリースした。熱帯アメリカやアフリカに自生し、さまざまな文化で神聖視される巨木セイバ1をインスピレーションの源とし、ポスト・バップから現代のジャズ、そして未来のジャズまでをも見据えたエキサイティングな傑作だ。

セイバという樹は、マヤ文明2においては天空と地上、そして地下世界をつなぐ宇宙の中心的な存在(=世界樹)として崇められたという。あるいはアステカ文明ではマヤと同様に聖なる樹木とされ宇宙の支柱や豊饒の象徴として描かれ、死者の魂が天へ昇るための橋とみなされた。プエルトリコのタイノ族はこの巨木の幹をくり抜いて30〜40人乗りのカヌーを作り、島間交易に用い、生命力や祖先とのつながり、回復力の象徴として、広場の中心に植えた──そうした伝説が各地に伝わる神聖な樹木だ。
サイモン・ムーリエは自身の音楽性の特長である“過去の遺産からの継承”、“現在の時代での進化”、そして“未来への継承”をセイバという樹木に象徴的に投影する。日本文化に想いを馳せる(2)「Fuji」や、ゲスト参加の小川慶太(Keita Ogawa)によるパンデイロも象徴的にブラジルのリズムを取り入れた(5)「Baião」、さらには(7)「Ancient Ones」といった楽曲で伝統文化への深いリスペクトを表明しつつ、それらの内でもアグレッシヴなソロを演奏してみせる。

小川慶太がゲスト参加した(2)「Fuji」

アルバムの収録曲はサイモン・ムーリエのこれまでの作品同様、すべて彼自身の作曲で、井然とした構造の中に豊かでメロディックな発想が際立つ。カルテットを組むメンバーは盟友のドラマーキム・ジョングク(Jongkuk Kim)ほか、ピアノにレックス・コルテン(Lex Korten)、ダブルベースにリック・ロサト(Rick Rosato)という鉄壁の布陣。

(10)「Mr. Hutcherson」は彼が敬愛するヴィブラフォンの巨匠ボビー・ハッチャーソン(Bobby Hutcherson, 1941 – 2016)へのトリビュートだろう。激しくもしなやかな演奏の中で垣間見せる豊かな叙情性が印象深い。

(10)「Mr. Hutcherson」のライヴ演奏

Simon Moullier 略歴

サイモン・ムーリエは1994年フランス・パリ生まれのヴィブラフォン奏者/作曲家。フランス西部のナントで育ち、クラシック・パーカッションを学んだ後、高校時代にヴィブラフォンを始め、独自の奏法とサウンドで注目を集めた。

ボストンのバークリー音楽大学で学士号を取得し、トランペッターのダレン・バレット(Darren Barrett)に師事。その後ロサンゼルスのセロニアス・モンク・ジャズ・インスティテュートで修士号を得て、クインシー・ジョーンズ(Quincy Jones)、ハービー・ハンコック(Herbie Hancock)、ウェイン・ショーター(Wayne Shorter)、ジミー・ヒース(Jimmy Heath)らの指導を得た。

現在はニューヨークを拠点に活動し、新世代ジャズ・ヴィブラフォンの第一人者としてジェラルド・クレイトン(Gerald Clayton)、ベン・ウェンデル(Ben Wendel)、ケンドリック・スコット(Kendrick Scott)など最前線の気鋭音楽家たちと共演を重ねている。

2023年にはテリ・リン・キャリントン(Terri Lyne Carrington)のグラミー賞受賞アルバム『New Standards Vol. 1』での編曲でグラミー賞を受賞し、ヴィブラフォン奏者として参加したレイヴェイ(Laufey)の『Bewitched』でもグラミー賞にノミネートされた。またダウンビート誌の批評家投票で「Rising Star Vibraphonist of the Year」に選ばれ、同誌90周年記念号で「25 for the Future」に選出されるなど、数々の栄誉に輝いている。

バンドリーダーとしては2020年の『Spirit Song』でデビュー以降、すでに6枚のアルバムをリリースし、世代をリードする存在として世界的に注目されている。

Simon Moullier – vibraphone
Lex Korten – piano
Rick Rosato – bass
Jongkuk Kim – drums

Guest :
Keita Ogawa – percussion (2, 5)

  1. セイバ(ceiba, 別名:カポック, パンヤノキ)…熱帯および亜熱帯地域に分布するアオイ科に属する樹木。一部の種は70メートル以上の高さに達し、直立しほとんど枝のない幹の上に巨大な広がった樹冠を発達させる。  ↩︎
  2. マヤ文明(Maya civilization)…紀元前1000年頃から16世紀頃まで、メキシコ南部からグアテマラ、ベリーズ、ホンジュラス周辺の熱帯雨林で栄えた高度な都市文明。驚異的な天文学、精密な暦、独自の絵文字、石造ピラミッドが特徴で、数十の都市国家が独自の文化を発展させた。 ↩︎

関連記事

Simon Moullier - Ceiba
Follow Música Terra