「初めて長調の曲も収録」…次世代北欧ジャズの旗手ヨエル・リュサリデスの新章。『Late on Earth』

Joel Lyssarides - Late on Earth

欧州随一の繊細さに、揺るぎない自信が加えられたピアニストの新譜

「静謐」と「強烈」、この一見相反するとも思える言葉が最も当てはまるというのが、スウェーデン出身のピアニスト、ヨエル・リュサリデス(Joel Lyssarides)への世間の評価らしい。私は彼の過去作について“まるで冬の冷たく引き締まった空気のように端正な音。クラシック音楽からの影響の強いジャズで、思慮深く紡いでいく絶妙なハーモニーは深呼吸したくなるほどの澄んだ美しさ”と評したが、なるほど、静謐なだけでなく「強烈」という言葉も言い得て妙だな、と2026年最新作『Late on Earth』を聴いて思った。

東欧民族的なメロディーが印象的な(1)「Bortom Bergen」

今作は4年以上にわたるセラピューティックなプロセスを経て、ヨエル・リュサリディス自身の完璧主義を捨て、「不完全な人間らしさ」や「即時的な経験(immediate experience)」を重視して制作された。プロデューサーであるアンドレアス・ブランディス(Andreas Brandis)との対話を通じ、彼は“リスクを取る”ことを学び、眠れない夜や一瞬の感情から生まれた音を書き溜めていったという。この限りない熟慮と成熟の結果生まれたアルバムには、彼にとって初めてアルバムに収録される長調の曲も含まれている。

ヨエル・リュサリデスにとって派手なコンセプトよりも、その音楽的な表現の深みが常に優先されてきたというのは理解に容易い。“音楽を作ることは砂漠で砂粒を探すようなもので、小さな一歩を積み重ねていく旅だ”と彼は言う。彼のこれまでの音楽がそうした生真面目で繊細な感性から生み出されていることは間違いないが、今作で感じるのはその繊細さに加えられた、彼のピアノが繰り出す一音一音の“確信的な力強さ”だ。じっくりと味わうようなレガートも、感情のままに発露する速い即興のパッセージも、ヨエル・リュサリデスは明らかな確信をもちながら鍵盤に魂を込めてゆく。

ニ長調(D-Major)の(2)「Mahabalipuram」

もちろん、ベースのニクラス・フェルンクヴィスト(Niklas Fernqvist)、ドラマーのラスムス・ブリクスト(Rasmus Blixt)という長年のコラボレーターの貢献も大きな賞賛に値する。彼らのプレイはあくまでもヨエル・リュサリデスのピアノのサポートに徹しているように思えるが、細部のニュアンスを含め彼の劇的な物語を演出する舞台を創っているのは、いつもこの二人だった。

Joel Lyssarides プロフィール

ヨエル・リュサリデスは1992年スウェーデンの首都ストックホルム生まれで、家系のルーツはギリシャ。
ソドララテン音楽学校やストックホルム王立音楽院で学び、バッハやラフマニノフ、スクリャービン、ブラームスといったヨーロッパのクラシック音楽からビル・エヴァンスやキース・ジャレットなどジャズの巨匠、そしてエスビョルン・スヴェンソンやボボ・ステンソンといった同郷の偉大な先人たちから影響を受けてきた。

自身のリーダー作だけでなく、これまでにアンネ・ゾフィー・フォン・オッター、ニルス・ラングレン、スヴェン=ベルティル・タウベ、シルヴァーナ・イマームといった幅広いアーティストと共演を重ねてきており、スウェーデンで今もっとも注目されるピアニストのひとりとして知られる。

Joel Lyssarides – piano
Niklas Fernqvist – bass
Rasmus Blixt – drums

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