Thiago Espírito Santo 『Ybirá』
ブラジルを代表するベーシスト、チアゴ・エスピリト・サント(Thiago Espírito Santo)の2026年新譜『Ybirá』が最高に素晴らしい。特にブラジル北東部の伝統音楽の流れを汲む超絶的なブラジリアン・インストで、豊かな音楽的土壌に深く根差した雄大な樹を象徴的に描いたジャケット・アートのとおり、とてつもない楽曲と演奏に度肝を抜かれる作品だ。
タイトル 『Ybirá』はトゥピ・グアラニー語1で「木」を意味する言葉で、幹を成すブラジル伝統文化やジャズと、そこから枝分かれし様々なジャンルが融合した各曲を象徴的に表す。土台にあるのは明らかに北東部音楽の巨匠ドミンギーニョス(Dominguinhos, 1941 – 2013)の叙情性や、天才エルメート・パスコアール(Hermeto Pascoal, 1936 – 2025)の先駆的な閃きが遺したブラジルの魂だ。全曲がチアゴ・エスピリト・サントによる作曲で、彼はそうした歴史的な音楽家からの啓示に“現代性”を加え、アカデミックな難解さを秘めながらも妙な親しみやすさを備えた楽曲を生み出した。
参加するミュージシャンも手練ればかりで、相当な難曲を即興も交えて完璧に演奏し、恵みに満ちた音楽に美しい花を添える。フルート/サックス奏者のジョタ・ペー(Jota P.)、フルート奏者モルガナ・モレーノ(Morgana Moreno)、ピアノのブルーノ・カルドーソ(Bruno Cardoso)、ドラムスのアレックス・バック(Alex Buck)とのアンサンブルは完璧で、多くの曲ではローラ・ポンペオ(Laura Pompeo)がスキャットで爽やかにメロディーを補完している。
チアゴ・エスピリト・サント自身はベースはもちろん、オーヴァーダビングによりギターなども演奏。クリエイティヴなソロでマルチ奏者ぶりを存分に発揮する。
Thiago Espírito Santo プロフィール
チアゴ・エスピリト・サントは1980年ブラジル・サンパウロ生まれのベース奏者/作曲家/プロデューサー/教育者。父親のアリスマール・ド・エスピリト・サント(Arismar do Espírito Santo)と母親のシルヴィア・ゴエス(Silvia Goes)も一流音楽家という恵まれた家庭に育ち、幼少期から多様な楽器に親しんだ。
主にフレットレスベースを軸に活動するマルチ器楽奏者として知られ、ギターや打楽器、ヴォーカルも自在に演奏する。ブラジリアンの伝統的なリズムにジャズやファンクを融合させた革新的なスタイルで知られ、30年以上のキャリアを通じてエルメート・パスコアールやジョージ・ベンソンといった著名アーティストと共演を重ね、作曲家としても独自の才能を発揮。2019年にはアルバム『Pra Te Fazer Sonhar』でブラジル音楽プロフェッショナル賞(Prêmio Profissionais da Música)で受賞。
教育者としても精力的に活動し、ワークショップやクリニックを全国で開催して多くの若手ミュージシャンを育成している。
Thiago Espírito Santo – bass, electric guitar, acoustic guitar, Melodica, percussion, voice
Alex Buck – drums
Bruno Cardoso – piano
Jota P. – flute, saxophone
Morgana Moreno – flute
Laura Pompeo – voice
- トゥピ・グアラニー語(Tupi-Guarani)…南米アマゾン川流域からパラグアイにかけて分布する約55の言語からなる語族。最も重要な言語であるグアラニー語はパラグアイの公用語(500万人近い話者)であり、「カリオカ」や「タピオカ」など、ブラジルの地名や語彙にも強い影響を与えた。 ↩︎