南アフリカ発、知られざる名ピアニストの傑作新譜

Neil Gonsalves - Blessings and Blues

優れたインタープレイが際立つ南アフリカのピアノトリオ

南アフリカのピアニスト、ニール・ゴンサルヴェス(Neil Gonsalves)の新譜『Blessings and Blues』がリリースされた。

前作『Latinfluence』(2014年)ではフラメンコ・ギタリストのデミ・フェルナンデス(Demi Fernandez)とのデュオでラテンやブラジル音楽をも取り込み自らの音楽観を拡張してきたニール・ゴンサルヴェスだが、そこから7年を経て制作された今作は明らかに、さらなる進化を遂げている。編成はシンプルなピアノトリオだが、多彩なリズムやハーモニー、そしてシンセなども効果的に用いたサウンドは編成以上にカラフルだ。

アフリカ的な旋律をテーマに持つが、鮮烈な転調も印象的な(4)「African Time」、イントロのシンセが強力なフックとなる(7)「Let’s Do It Again」、ヨーロッパ的でエレガンスな(9)「Southern Migration」など、どの曲も一クセあり、そして何よりもトリオの演奏がクリエイティヴだ。

楽曲は彼自身が50歳を迎えた2019年に書かれたものが殆どだという。
熱気立ち籠めるスウィングがある。快活なアフリカ音楽のメロディーがある。そして知的で洗練された、確かな“今”の音がある。

BandCampのページではニール・ゴンサルヴェスによる本作に寄せた素晴らしいコメントを読むことができたので、一部を翻訳し引用したい。

2019年はたくさんの楽曲を作曲した。僕は50歳になった。
振り返る時期、そして夢を見る時期。
それから、12月に僕の音楽を録音するための小さな窓が開いた。
久しぶりに僕のトリオが同じ部屋に集まるという偶然。
僕の新曲に命を吹き込むための短くシンプルな循環コード、小さなヴァンプ、ツイストとターン、土の音、信者の夢、儀式の踊りとジャズの恍惚、歌われない人々のための歌。

それはブルースであり、シンプルだけど重層的。それはアフリカの音楽。ロックンロール。
一旦演奏されると、曲たちは儀式的な感覚や旅の感覚を生み出す。
山から谷へ、生命が溢れていて、派手でカラフルで活気に満ちていて、ダンサーのような生活、太陽を浴びて、海で飽和状態になって、感覚的にオーバーロードするような輝かしい生活。Covidとは正反対のもの。
素早く学び、ゆるやかに知り、そして忘れていく音楽。
自由に楽しく演奏するためのもの。

https://neilgonsalves.bandcamp.com/

ダーバンを拠点とする知られざる名ピアニスト

ニール・ゴンサルヴェスは南アフリカの魅力的なビーチを持つ観光都市ダーバン(Durban)を拠点としている。
だがこの地の音楽や文化に対するメディアの扱いはヨハネスブルグやケープタウンのそれに比べると圧倒的に軽視されている感がある。南アフリカを代表するアーティストのブシ・ムロンゴ(Busi Mhlongo)やジョニー・クレッグ(Johnny Clegg)などとステージを共にしてきたニール・ゴンサルヴェスでさえ、これまでにメディアで紹介される機会は限られていた。おそらく、日本語で紹介されるのもこれが初めてだろうと思う。

事実、私も注目される若手ピアニスト、スィブスィソ・マシロアネ(Sibusiso “Mash” Mashiloane)の“教師”としてしか、彼の名前を見たことがなかった──これまでに今作も含めて4枚ものアルバムをリリースしているのに。今作で初めて彼の演奏に触れたが、南アフリカの豊かな音楽文化は、こうした目立たない活動をしている優れた音楽家が他にもたくさんいるからなのだろう。

今作のトリオでは、ニール・ゴンサルヴェス以外の二人のプレイも際立っている。

ドラマーのリレイ・ジャンダリ(Riley Giandhari)と、ベーシストのイルド・ナンジャ(Ildo Nandja)。
おそろしく上手い演奏を見せている二人は共に自身をリーダーとするバンドも持つほどの実力者のようだ。
ニール自身も、この二人の素晴らしい音楽家を尊敬し、二人から大きなインスピレーションを受けていることは演奏からも明らかだ。

彼らの情報はまだまだ集めきれていないので、いずれ改めてきちんと紹介する機会を持ちたい。

Neil Gonsalves – piano, keyboards
Ildo Nandja – bass
Riley Giandhari – drums

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