Sophia Chablau & Felipe Vaqueiro 『Handycam』
2020年代ブラジル・インディーを代表する二人の気鋭シンガーソングライター、ソフィア・シャブラウ(Sophia Chablau)とフェリピ・ヴァケイロ(Felipe Vaqueiro)が出会い意気投合、2025年10月にリリースしたアルバム『Handycam』。MPBやトロピカリアに通ずるサイケロックを基調に、親密で文学的なソングライティングによって恋愛や友情といった身近な感情から、戦争やメディアのあり方までを描いた、要注目の作品となっている。
アルバムはシンプルながら哲学的な英語詩と、バイーア的なパーカッションも特徴的なソフィア・シャブラウの楽曲(1)「Lungs Full of Air」で始まる。ガットギターとファズの効いたエレキギターは今作全編で土台となっており、どことなくブラジルのレジェンド「ノヴォス・バイアーノス(Novos Baianos)」を彷彿させる。若く、衝動的で、荒削りな魅力に惹き込まれる。
2020年代を生きる若者たちにとっても、いまだに「戦争」が歌のテーマになるのはなんと不幸なことだろうと思う。
フェリピ・ヴァケイロ作の(2)「Campo minado」では恋愛を“地雷原”にたとえながら、中盤では現実の戦争へと視点が広がり、国や地域によって異なるように扱われる“命の重み”を嘆く。つづく(3)「Cinema total」でも、日常のなかに当たり前のような顔をして存在している戦争へと言及。しかし、こうした社会の不条理が、彼らの音楽のエネルギー源となっていることもまた間違いないようだ。
彼らの友人、ジュリア・ゼン(Júlia Zen)に捧げられた(5)「Já não me sinto tão só」は古典的なニュー・ウェイヴの様相。フェリピは、仲間内の集まりなどをいつも企画してくれるジュリア・ゼンを「今までに出会った中で最高の友人」と讃え、かけがえのない仲間との豊かな時間や思い出に大きな感謝を捧げる。前述のような社会的なテーマもありながら、若者らしい友情が自然体で語られるのも本作の魅力だ。
後半に収められた、より激しいパンクロック(6)「Viciado em carinho」や(9)「Quantos serão no final?」も素晴らしい。ソフィア作の後者は明らかに昨今の中東地域での戦争の惨禍を歌っており、「ガス弾」や「ミサイル」といった直接的な表現をもって、気まぐれのように突然始まり無実の人々の命を奪う戦争への怒りを露わにしている。
Sophia Chablau プロフィール
ソフィア・シャブラウはブラジル・サンパウロ出身のシンガーソングライター/ギタリスト。2020年代のブラジル・インディー・シーンを代表する存在の一人であり、文学的な歌詞と自由な音楽性で高い評価を受けている。
幼少期から音楽教育を受け、5歳で音楽教室に通い始める。当初はピアノを学んだが、ほどなくギターへ転向し、11歳頃から作曲を始めた。高校時代には2015年の「春の高校生運動(Primavera Secundarista)」1にも参加し、その経験を通じて結成されたバンド、ベゾウロ・ムリェール(Besouro Mulher)で本格的な音楽活動を開始。その後、ソフィア・シャブラウ & ウマ・エノルミ・ペルダ・ヂ・テンポ(Sophia Chablau e Uma Enorme Perda de Tempo)を結成し、2021年のセルフ・タイトルのデビューアルバムで一躍注目を集めた。2023年には同バンドの2作目『Música do Esquecimento』と、Besouro Mulherのデビューアルバム『Volto Amanhã』を同年に発表し、いずれもブラジル国内の音楽評論家から高い評価を受けている。
ソングライターとしても評価が高く、自身の楽曲はゼー・イバーハ(Zé Ibarra)、ドラ・モレレンバウム(Dora Morelenbaum)、アナ・フランゴ・エレトリコ(Ana Frango Elétrico)らによって取り上げられているほか、2022年にはジョゼ・ミゲル・ウィズニキ(José Miguel Wisnik)のアルバム『Vão』に参加。HBO Brasil作品のサウンドトラックや数多くの客演にも携わるなど、シーンを横断する活動を展開している。2025年にはTangolo Mangosのフェリピ・ヴァケイロとのデュオを始動し、EP『NOVA ERA / OHAYO SARAVÁ』、アルバム『Handycam』を発表した。
音楽面では、MPB、トロピカリア、ブラジル・インディーロック、フォーク、サイケデリックなどを自在に横断しながら、日常の情景や恋愛、政治や社会への眼差しを自然体の言葉で描く作風が特徴。ライブでは親しみやすい人柄と即興性あふれるパフォーマンスでも知られ、現在のブラジルを代表する若手ソングライターの一人として国内外から注目を集めている。
Felipe Vaqueiro プロフィール
フェリピ・ヴァケイロはブラジル・バイーア州サルヴァドール出身のシンガーソングライター/ギタリスト/マルチ・インストゥルメンタリスト。ロック・バンド Tangolo Mangos の創設者であり、作曲・編曲の中心人物として知られる。
Tangolo Mangosは、Felipeが自宅録音した楽曲をSoundCloudへ投稿していたソロ・プロジェクトとして始まり、その後2017年にバンドへと発展した。バイーア連邦大学(UFBA)で文化プロデュースを学び、音楽活動と並行して映像制作やアニメーション、映画音楽などにも携わっている。ソロ活動のほか、ファテル&ヴァケイロ(Fatel & Vaqueiro)など複数のプロジェクトでも活動し、ブラジル各地のインディー・アーティストとの共演やプロデュースを積極的に行っている。
Tangolo Mangos では、ギターだけでなくバンドリン、カヴァキーニョ、ギター・バイアーナ、キーボード、シンセサイザー、ハーモニカ、リコーダーなど数多くの楽器を演奏するマルチプレイヤーとして知られる。バンドの音楽性について本人は、「Geraldo AzevedoとThe Beatlesが出会ったような音楽」と表現しており、トロピカリアやマンギビート2の精神を受け継ぎながら、ブラジル北東部の伝統音楽、サイケデリック・ロック、MPB、プログレッシブ・ロックなどを独自の感覚で融合させている。
2023年にソフィア・シャブラウと出会い、互いの創作に共鳴したことから共同制作を開始。2025年にはデュオ名義で『Handycam』を発表した。同作では「記憶」や「愛」、そして現代社会へのまなざしをテーマにした楽曲を共同で制作し、「二人で一つの世界を作り上げた」と語っている。現在はTangolo Mangosと並行して、このデュオでもライブや創作活動を続けている。