Tristan Mélia 原点回帰のソロピアノ作『The Bird in My Heart』
フランスの新鋭ピアニスト、トリスタン・メリア(Tristan Mélia)のソロピアノ作『The Bird in My Heart』が素晴らしい。アルバムはピアノ演奏、録音、ミキシング、マスタリングがすべて彼自身によって行われており、真に内省的な制作プロセスを通じて生み出された音にはアーティストの独白が綴られており、さらにはその奥に秘められた彼の魂の咆哮を感じさせる。3曲のカヴァーと、5曲のオリジナルを収録。
公式の紹介ではセルゲイ・ラフマニノフ(Sergei Rachmaninoff, 1873 – 1943)とビル・エヴァンス(Bill Evans, 1929 – 1980)からの影響が書かれているが、それよりもずっと近しく感じるのはイタリア生まれのピアニスト、ジョヴァンニ・ミラバッシ(Giovanni Mirabassi)のピアニズムだ。美の極致とも言える名盤『AVANTI!』(2000年)など若きミラバッシのソロピアノ作品を聴いたことがある方であれば、冒頭のトリスタン・メリアのオリジナル曲(1)「The Bird in My Heart」から、すぐに彼の中に潜むミラバッシの影を感じると思う。どこまでも深く深く、海の底へと沈みゆくような耽美な左手の分散和音。その中に漂うわずかな光を反射しきらめくような右手のパッセージ。感情の迸るままに奏でられるその音は、まるでミラバッシのそれを聴いているようだ。
そう感じてすぐに調べてみたら、やはりトリスタン・メリアは10代後半でジョヴァンニ・ミラバッシに出会い、その指導を受けていたようだ。これがピアニストとしての彼の音楽性に大きな影響を与えたことは、続くエデン・アーべ(Eden Ahbez, 1908 – 1995)作のスタンダード(2)「Nature Boy」などにも明瞭に表れている。
美しく抒情的でありながら、トリスタン・メリアのピアノからは芯の強さも感じられる。力強いピアノのタッチからは、驚くほど繊細な音が繰り出される。オリジナルの(3)「River Road」や(5)「Improvisation」から浮かび上がるのは、そうした“信念のピアニスト”としてのトリスタン・メリアだ。
彼らしいと思わせるのは(6)「Soledad」。スペイン語で「孤独」を意味する物悲しい短調の曲だが、鍵盤の上から下まで広く力強く駆け回る彼の両手からは、むしろ“独りで在ることの強さ”が込められているように感じる。
Tristan Mélia プロフィール
トリスタン・メリアは、1995年フランス生まれのジャズ・ピアニスト/作曲家。幼少期からピアノに親しみ、12歳で音楽家を志した。サロン=ド=プロヴァンスのIMFP(Institut Musical de Formation Professionnelle)やマノスク音楽院で学び、ジャズとクラシック双方の素養を培う。18〜19歳頃にイタリア出身のピアニスト、ジョヴァンニ・ミラバッシ(Giovanni Mirabassi)と出会い、その助言とレッスンを受けたことがピアニストとして大きな転機となった。
ビル・エヴァンス(Bill Evans)、キース・ジャレット(Keith Jarrett)、ミシェル・ペトルチアーニ(Michel Petrucciani)、エンリコ・ピエラヌンツィ(Enrico Pieranunzi)らの系譜を感じさせる抒情的なピアノを特徴とし、歌うような旋律感覚と繊細な即興表現で注目を集める。トリオ編成からピアノ・ソロまで幅広く活動し、とりわけソロ作品では静謐で内省的な世界観を展開している。
2018年に初アルバム『No Problem』を発表。続く『Mistake Romance』(2021年)はソロ・ピアノ作品として高い評価を受け、ジャズとクラシックの境界を越えるロマンティックな感性が話題となった。近年は『Your Pain in My Heart』(2024年)、『The Bird in My Heart』(2026年)などを発表し、演奏だけでなく録音・ミキシング・マスタリングまで自ら手がけるセルフプロデュース作品にも取り組んでいる。
フランスの音楽メディアからは「未来が輝かしいピアニスト」「新しいソロ・ピアノの王子」と評され、現在もソロおよびデュオ、トリオを中心にヨーロッパ各地で演奏活動を続けている。
Tristan Mélia – piano