マヌーシュ・スウィングの天才ビレリ・ラグレーン、フランスの作曲家ルイ・ガステを再訪する新作

Biréli Lagrène plays Loulou Gasté

ビレリ・ラグレーン・プレイズ・ルールー・ガステ

マヌーシュ・ジャズを代表するギタリスト、ビレリ・ラグレーン(Biréli Lagrène)は、新作『Biréli Lagrène plays Loulou Gasté』でフランスの作曲家“ルールー・ガステ”ことルイ・ガステ(Louis Gasté, 1908 – 1995)に最大限のリスペクトを捧げている。

ルイ・ガステは50年間ほどの作曲家のキャリアの中でおよそ1,200の曲を書き、うち10曲ほどが国際的に知られている作曲家だ。(3)「Pour toi」はそのなかでも最も曰く付きで、ブラジルのシンガーソングライター、モーリス・アルバート(Morris Albert)が1974年に「Feelings」というタイトルで歌い世界的に(日本では「愛のフィーリング」という邦題がつけられている)ヒットさせたが、ルイ・ガステを作曲者としてクレジットしていなかったため後に盗作として裁判になり、1988年にルイ・ガステの勝訴で解決している。

(1)「Ma cabane au Canada」は後にルイ・ガステの妻となったリーヌ・ルノー(Line Renaud, 1928 – )が1949年に歌い、フランスで半年間で80万枚を売り上げたヒット曲。ここではビレリ・ラグレーンの卓越したリードギターによって、明るいシャンソンの雰囲気を保ったまま軽快なマヌーシュ・スウィングへと昇華している。

(1)「Ma cabane au Canada」

(11)「Ces P’tites Choses Là」もルイ・ガステの代表曲のひとつ。アルバム全編でビレリ・ラグレーンをサポートするギタリストのホノ・ウィンタースタイン(Hono Winterstein)と、ダブルベースのディエゴ・インベルト(Diego Imbert)のリラックスした演奏も最高に素晴らしい。

ルイ・ガステとリーヌ・ルノーは、マヌーシュ・スウィングの創始者であるジャンゴ・ラインハルト(Django Reinhardt, 1910 – 1953)に深い敬意を抱いていた。(12)「Django」はその象徴的な楽曲で、超絶技巧だけでなく甘くとろけるようなバラードにも長けていたジャンゴ・ラインハルトを彷彿させるビレリ・ラグレーンの穏やかなスウィングが心地よく響きわたる。

(4)「Un amour d’été」

このプロジェクトはルイ・ガステの妻であり、女優/歌手のリーヌ・ルノー(Line Renaud)との密接な協力により実現した。有名な曲もそうでない曲も、ルイ・ガステが生涯に作曲した膨大な作品の中からもっとも美しい楽曲を再訪するというコンセプトのもとで、12曲が収録されている。

Biréli Lagrène 略歴

ビレリ・ラグレーンは1966年フランス北東部、ドイツ国境に近いバ=ラン県の小さな村、スフレンアイム生まれ。伝統的なロマ(ジプシー)の家系に生まれ育ち、4歳から家族の指導を受けギターを弾き始め、8歳の頃には既に“神童”と呼ばれるほどの実力を発揮していた。

13歳でアルバム『Routes to Django』で衝撃的なデビューを飾り、“ジャンゴ・ラインハルトの再来”と驚きを持って迎えられた。
その後はジャンゴ・ラインハルトの演奏スタイルを活動の軸としつつも、80年代後半にアメリカに進出したことをきっかけにジャズやフュージョンの分野にも進出。フレットレスベースの名手ジャコ・パストリアス(Jaco Pastorius)とヨーロッパ・ツアーを行うなどし彼の音楽性にも多大な影響を与えた。ビレリ・ラグレーンはのちにフランスのビッグバンド「Multiquarium Big Band」が演奏するジャコ・パストリアス・トリビュート作『Remembering Jaco』(2020年)でベーシストとしてフィーチュアされ、盟友を彷彿させるプレイをみせている。

ビレリ・ラグレーン、14歳の頃の映像。
既に超人的なギターだが、途中でベース演奏も披露するなど末恐ろしい才能を見せつける。

Biréli Lagrène – guitar
Hono Winterstein – rhythm guitar
Diego Imbert – contrabass

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