ニルジ・カルヴァーリョ新譜『Nos Combates da Vida』
世の中には、幼少期からとんでもない音楽の才能を示す者がいる。音楽をするために生まれてきたかのような彼らは幼い指で大人顔負けの驚くべき演奏を見せ、周囲を大いに楽しませ、ときに大人たちの期待を一身に背負うことになる。
ニルジ・カルヴァーリョ（Nilze Carvalho）もそうした所謂”天才”のひとりだった。1969年にリオデジャネイロ州ノヴァ・イグアスで生まれた彼女は、5歳のときにカヴァキーニョで「Acorda Maria Bonita」を見事に演奏し、兄に音楽の道を進むように勧められた。6歳からステージに立った彼女がサンバ/ショーロ界隈で神童として話題になるまでそう時間はかからなかった。周囲のサポートにも恵まれ、心から音楽を理解し楽しみながら順調にキャリアを重ねていき、わずか12歳でリリースしたアルバム『Choro de Menina』（1981年）は今聴いても色褪せないショーロの傑作だ。
そんな彼女が芸歴45年を迎えた2024年、前作から約10年ぶり、制作に6年を費やしたというアルバム『Nos Combates da Vida』をリリースした。ほとんどの曲でヴォーカルとカヴァキーニョを弾き、生粋のサンビスタとしての強かな生き様を静かに見せてくれる素晴らしい作品に仕上がっている。
アルバムはニルジ・カルヴァーリョにとって永遠のヒロインである女性サンバ歌手ドナ・イヴォンヌ・ララ（Dona Ivone Lara, 1922 – 2018）が歌った(1)「Nos Combates Desta Vida」で幕をあける。 正統派のサンバやショーロから、一風変わったラテン・アメリカンな(3)「Menina Miúda」まで、たっぷりと披露される楽曲たちは商業主義的音楽からは一線を画し、アーティストが心の赴くままに愛するサンバを楽しみ尽くした記録のようなものだ。ここには眩しいほどに純粋すぎる音楽への敬意と愛情が溢れている。
事実、現在の彼女はレコード・レーベルに所属しておらず、資金的なバックアップがないようだ。
それ故に好きなように時間を使い、好きなようにレパートリーを選び、好きなように表現してアルバムを作ることができたという。「私たちにはお金も知名度もないし、競争することさえできないので、市場に適応する必要はないの。だから、好きなことをやらせて」彼女がはにかみながら語る姿は想像に難くない。
ニルジ・カルヴァーリョはやはり数少ない、“生まれながらの音楽家”だ──
呼吸をするように楽器を弾き、声だけでなく体中で音楽を表現する。その姿はあまりに自然で、まるで体の中から音楽が溢れ出しているかのよう。
彼女については以前よりそんな印象を抱いていたが、この作品もそれを確信するには充分すぎるほどのものだった。
インスト曲「Arabiando」ではバンドリンも演奏
今作でニルジ・カルヴァーリョはほぼ全ての曲でカヴァキーニョを演奏しているが、唯一(8)「Arabiando」ではバンドリンを弾いている。これはエスメラルジーノ・サーレス（Esmeraldino Salles, 1916 – 1979）が作曲したショーロの古典で、インストで演奏される疾走感のある曲にかつての天才バンドリン少女が蘇るようだ。
ゲスト参加はジョアン・ボスコ（João Bosco）とテレーザ・クリスチーナ（Teresa Cristina）。それぞれ1曲ずつでニルジとともに歌い、アルバムの後半を華やかに彩る。
Nilze Carvalho – vocal, cavaquinho, bandolim (8), ganzá (10)
Diego Zangado – drums, tamborim, ganzá
Zé Luis Maia – bass
Hudson Santos – guitar, 7-string guitar
Luiz Augusto Guimarães – percussion
Paulino Dias – percussion
Magno Julio – percussion
PC Castilho – flute (2, 5, 8, 9, 11), alto saxophone (3, 7, 12)
Sheila Zaguri – keyboards (2, 3, 9)
Laila Aurore – cavaquinho (8)
Prhi Peixoto – cavaquinho (12)
Roberto Kauffman – accordion (8, 9)
João Bosco – guitar, vocal (10)
Teresa Cristina – vocal (13)
Ana Costa – chorus
Laila Aurore – chorus
Camila Costa – chorus
Patricia Mellodi – chorus
Pedro Miranda – chorus