エズラ・コレクティヴ、待望の新譜はアフリカン・ディアスポラの音楽的ルーツを辿る大作!

Ezra Collective - Here Because of Hope

Ezra Collective が『Here Because of Hope』で描く“希望”の歩み

2023年にジャズ・グループとして史上初めてマーキュリー・プライズ1を受賞し、名実ともに英国を代表するバンドになったエズラ・コレクティヴ(Ezra Collective)が、第4作目となるスタジオ・アルバム『Here Because of Hope』をリリースした。ジャケットには日本でいう三猿2(見ざる、聞かざる、言わざる)を思わせるポーズをした子ども達が写っている。今作は西アフリカからカリブ海を経てロンドンへと渡った黒人ディアスポラの歴史を、その土地から生まれた音楽によって辿る三部構成のコンセプティヴな作品となっており、その音楽を紐解いていくと、彼らがタイトル“希望ゆえにここにいる”に込められた想いや、印象的なジャケットの意味が見えてくる。

アルバム制作の出発点には、ドラマー兼リーダーのフェミ・コレオソ(Femi Koleoso)が抱いていたひとつの疑問があった──アフリカやカリブ海、そして英国の黒人音楽には、戦争や奴隷制、植民地主義、貧困といった厳しい歴史や社会状況から生まれたものが少なくない。それなのに、そこで鳴らされてきた音楽の多くは人々を集め、踊らせ、喜びを生み出してきたのはなぜなのだろう?という素朴な問いだ。

フェミ・コレオソが例に挙げるのは、ナイジェリアの政治的混乱を背景に発展したアフロビート、奴隷制と植民地主義の歴史を持つカリブ海のカリプソ、そしてロンドンの貧しい地域から生まれたグライムなどだ。彼はこうした音楽に共通するものを考えるなかで、Hope、つまり希望という言葉に辿り着いたという。

それは、現在の苦しみがいつまでも続くわけではないと信じること。
いつか状況が変わり、自分たちや次の世代が別の場所へ辿り着けると信じること。
──その感覚は音楽とともに受け継がれ、人の移動とともに海を渡ってきた。

今作は、その“希望”が渡ってきたであろう道筋を、実際に辿ってみせる。

全17曲はガイアナ出身でイギリスで活躍する俳優、レティーシャ・ライト(Letitia Wright)による「Part 1」「Part 2」「Part 3」の短いスポークン・ワードによって三つに区切られている。

最初に向かうのは西アフリカだ。

フェミとベーシストのTJ・コレオソ(TJ Koleoso)の両親はナイジェリアから英国へ渡った移民であり、この旅は彼ら自身の家族史とも重なる。(3)「Sweet Echo」ではガーナで発展したハイライフを取り入れ、普段の5人編成にパーカッションやギター、ホーンを大幅に増員。(5)「Only Love」にはガンビアにルーツを持つ英国のラッパー、パ・サリュー(Pa Salieu)がゲストで参加している。

(5)「Only Love」

(7)「Part 2」で海を渡ると、音楽はカリブ海へと移る。

ジャマイカのシンガー、リラ・アイケ(Lila Iké)を迎えた「Well Organised」ではレゲエ/ダブが色濃くなり、ロンドンの若者を中心とした音楽集団キネティカ・ブロコ(Kinetika Bloco)のスティールパンも響く。(11)「El Corazón」ではサルサへと接近し、コンガやホーンを交えたアンサンブルが展開される。

ここで扱われる音楽は、西アフリカから急に切り離されたものではない。大西洋奴隷貿易によってカリブ海へ連れてこられたアフリカ系住民とその子孫は、持ち込まれたアフリカの音楽文化を、ヨーロッパや先住民などの文化と混ぜながら新たな音楽へと変えていった。ここで聴くことのできるカリプソ、レゲエ、サルサなどの音楽は、さまざまな文化と混ざり合いながら各地で受け継がれていった西アフリカの遺伝子なのだ。

(8)「Birdie Sings」

そして(13)「Part 3」を経て、音楽はEzra Collectiveが生まれ育ったロンドンへとたどり着く。

戦後の英国にはカリブ海やアフリカから多くの人々が移住し、その人々とともに音楽も渡ってきた。レゲエやダブ、サウンドシステム文化は英国で独自の発展を遂げ、やがてヒップホップ、ジャングル、UKガラージ、グライムなど、新しい世代の音楽とも結びついていく。Ezra Collectiveの音楽も、アフリカで生まれた音楽の遺伝子を受け継ぎながら、そのロンドンから生まれたものだ。

(15)「Jubilee Feeling」

“三猿”のポーズが意味するもの

ジャケットの写真に込められた意味を、彼らは明確には説明していない。ただ、奴隷制や植民地主義、戦争、貧困と、そのなかで生まれてきた音楽について考えた作品の表紙に、目と耳と口を塞いだ子どもたちがいる、という取り合わせは気になる。

しかも、本作には地域限定の別ジャケットが存在する。
「West Africa Edition」はナイジェリアのラゴス、「Caribbean Edition」はジャマイカのキングストンで撮影された写真を使用しており、それらのジャケットには“三猿”を思わせる写真は使われていない。

調べたところによると、英国ではこの「見ざる、聞かざる、言わざる」のポーズは一般的にネガティヴな文脈で用いられており、「不正や悪事を知りながら、自己保身や臆病さから意図的に無視する人々を皮肉る」表現なのだそうだ。

限定ジャケットが用意された西アフリカとカリブ以外の地域では、汎用的にこのジャケットが用いられている。
その意味を、私たちは少し考えてみる必要がありそうだ。

Ezra Collective :
Femi Koleoso – drums
TJ Koleoso – bass
Joe Armon-Jones – keyboards
James Mollison – saxophone
Ife Ogunjobi – trumpet, programming

Guests :
Letitia Wright – spoken word / vocals (1, 7, 13)
Pa Salieu – vocals (5)
Lila Iké – vocals (10)
Nia Smith – vocals (10)
Leona Lewis – vocals (14)
Libianca – vocals (17)
Lotus Warmington-Armon-Jones – percussion (2)
Karl Vanden Bossche – percussion (3, 6, 8, 9, 12, 14, 15, 17)
Oli Savill – percussion (3, 4, 6, 8, 9, 11, 12, 14, 15, 17), congas (10)
Joyful Koleoso – percussion (4)
Shiloh Koleoso – percussion (4)
Marlon Hibbert – percussion (12)
Sunshine Koleoso – percussion (15)
Tobi Adenaike – guitar (3, 4, 5, 6, 8, 12, 15, 17), percussion (9)
Matt Roberts – trumpet (3, 4, 9, 11, 15)
Kaidi Akkinibi – alto saxophone (3, 4, 6, 8, 9, 11, 12, 14, 15)
Jermaine Amissah – baritone saxophone (3, 4, 6, 8, 9, 11, 12, 14, 15)
Harry Brown – trombone (3, 4, 6, 8, 9, 11, 12, 14, 15)
Kinetika Bloco – steel drums (10)
TJ Carter – drum programming (15)
Riley MacIntyre – programming (2)

  1. マーキュリー賞(Mercury Prize)…イギリスもしくはアイルランドで毎年最も優れたアルバムに対して贈られる音楽に関する賞。Ezra Collective はアルバム『Where I’m Meant To Be』で同賞を受賞した。 ↩︎
  2. 三猿…3匹の猿がそれぞれ両手で目・耳・口を隠した意匠で、日本では「悪いことを見るな、聞くな、言うな」という戒めや教えとして広く知られている。発祥は明確ではないが、同様のモチーフは古代エジプトやアンコール・ワットなど世界中で見られる。 ↩︎

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