身体に刻まれた”傷と起伏”。ブラジルから届いた極上のネオソウル、THAMI『Relevuras』

THAMI - Relevuras

最高のセンスを見せた、ブラジル発ネオソウル『Relevuras』

とにかく、めちゃめちゃセンスのいいブラジル産ネオソウルだ。
リオデジャネイロ州出身、現在はサンパウロを拠点とするシンガーソングライター、タミ(THAMI)の新作『Relevuras』。アルバムに収録された10曲にはダンサーとしての20年のキャリアから歌手に転身した彼女に特有の音楽の身体性があり、より商業的に有利な条件の提案を“アイデンティティが失われる”からと断り、インディーズでの活動を続けることを選択したという芸術家らしい誇りも感じられる。

アルバムの冒頭、(1)「Folhas Do Outono」が最高に素晴らしい。歌が素晴らしいのはもちろん、とてつもなく洒落たコード、リズム、過度にエレクトロニックにならず生楽器の演奏が生む人間性が見事なバランスで混在し、最高のオープニングとなっている。演奏者のクレジットは確認できなかったが、間奏のフルート・ソロの音選びも面白い。

(1)「Folhas Do Outono」

続く(2)「Ainda É Pouco」も、このアルバムの音作りをよく表した一曲だ。プロデュースはルエジ・ルナとの仕事などで近年その存在感を高めているドゥダ・ラウプ(Duda Raupp)。タミとドゥダ・ラウプは離れた場所からリモートで制作を進め、生のホーン・セクションを録音に加えた。ネオソウルを軸にしながらも、ゴスペルを思わせるコーラスや、グルーヴィーなジャズファンクに通じる管楽器の響きが曲に厚みを与えている。

この「Ainda É Pouco」、つまり“まだ足りない”というタイトルには、前述のように商業的には魅力に思えるオファーを断り、インディペンデントで音楽活動を続けるタミ自身の経験が反映されている。自分自身で楽曲を作るだけでなく、資本力に頼ることなくリリースし、プロモーションを行い、数字や結果を求めるなかで生じる「何をしても十分ではない」という感覚は、アルゴリズムや商業的な期待といった圧力に自身の作品を迎合することを拒否する、彼女の姿勢の核心と結果でもある。

過去の傷とは、癒すものではなく“人格を形成するもの”

アルバム・タイトルの『Relevuras』はタミ自身が作った造語で、「feridas(傷)」と「relevos(起伏、凹凸)」というイメージが重ねられている。かつては「過去の傷」について、治し、克服し、置き去りにするものとして捉えていた彼女は、やがてそれらは消えるものではなく、自分を形作る一部になっていると考えるようになったという。傷によって生まれた人生の凹凸。それを表す既存の言葉が見つからなかったため、「Relevuras」と名付けたのだ。

その考えはアルバム全体に通底している。タイトル曲(4)「Relevuras」は制作の最後まで完成しなかった曲で、タミ自身、何を歌いたいのかは分かっていながらその着地点を見つけられずにいた。転機となったのは楽曲制作そのものではなく、アルバムの写真やヴィジュアル・アイデンティティを作る過程だった。クリエイティヴ・ディレクターのギリェルミ・“ギリ”・ファリアス(Guilherme “Guile” Farias)と自身の人生や作品について長時間話し合ったことで、ようやく曲の後半を書き上げることができたという。

(4)「Relevuras」

魅力的なゲストも参加

(5)「Prisioneira de Mim」には、現代ブラジル音楽を代表するシンガーソングライターのひとり、ルエジ・ルナ(Luedji Luna)が参加。タミにとってルエジは自身の音楽形成に影響を与えた重要な存在で、この曲では歌唱だけでなく作曲も共有している。二人の声質の違いも心地よく、アルバム中盤の大きな聴きどころとなっている。

(5)「Prisioneira de Mim」

後半では(9)「Fiquei Assim」にサンパウロのラッパー、ラシッド(Rashid)が登場する。この曲はもともとタミのパートだけで完成していたが、物語にもう一つの視点が必要だと考えた彼女がラシッドに参加を依頼したもの。タミが関係を終わらせる側から歌い、ラシッドが別の立場から言葉を返すことで、一曲のなかに二つの視点が生まれている。

ネオソウルを軸にしながら、人間的な温かみを失わない稀有な作品

『Relevuras』で一貫しているのは、ネオソウルやR&Bの語法を基盤としながら、音を必要以上にデジタル処理へ寄せていないことだ。タミ自身も制作にあたって、過度にデジタルで人間の経験から離れた作品にはしたくなかったと語っている。ドラム、ベース、ギター、管楽器などを実際に録音し、その演奏を楽曲の中心に残した。

それが冒頭の(1)「Folhas Do Outono」で感じた身体性にもつながっているのだと思う。コードやアレンジは洗練されているのに、演奏まで綺麗に整えすぎない。声と楽器、リズムの間に人間が演奏している感触が残っている。ネオソウル、R&B、MPB、ゴスペルといった要素を自然に行き来しながら、10曲33分というコンパクトな作品にまとめた。

まだ国際的に広く知られている存在とは言い難いタミだが、『Relevuras』を聴く限り、その音楽にはすでに明確な個性がある。ブラジルのインディペンデント・シーンから現れた、ぜひ覚えておきたいシンガーソングライターだ。

THAMI プロフィール

THAMIは、ブラジル・リオデジャネイロ州ニローポリス出身のシンガーソングライター。本名はタミレス・ヂ・オリヴェイラ・ペレイラ・ゴウラール・コスタ(Thamires de Oliveira Pereira Goulart Costa)。幼少期から教会で音楽に親しむ一方、3歳からダンスを始め、約20年間にわたってダンサーとして活動。ダンスを専門的に学び、作家/演出家/振付師デボラ・コルケル(Deborah Colker)のカンパニー関連プロジェクトやミュージカルなどにも携わった。

2018年頃から本格的に歌手へ転向し、イザ(IZA)のプレンミオ・ムルチショウでのステージにコーラスとして参加したほか、2019年にはロック・イン・リオでトゥアニー・ザニーニ(Tuany Zanini)のバックヴォーカルを務めた。2020年から自身名義の楽曲を発表し、2022年に初EP『Nua』、2024年に1stアルバム『Labirinto』をリリース。その後はサンパウロを拠点に活動し、R&B、ソウル、MPBなどを横断する音楽を展開している。2026年にはルエジ・ルナ(Luedji Luna)、ラシッド(Rashid)らを迎えた2ndアルバム『Relevuras』を発表した。

THAMI – vocals

Luedji Luna – vocals (5)
Rashid – vocals / rap (9)
Duda Raupp – production
Shimodaira – production
Marcelo Delamare – production
Julio Mossil – production

THAMI - Relevuras
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