ヴィラ=ロボスから連なる豊穣なブラジル音楽の系譜を辿る。『Os Filhos de Villa』

Amilton Godoy & Gabriel Grossi - Os Filhos de Villa

アミルトン・ゴドイ&ガブリエル・グロッシ『Os Filhos de Villa』

2012年にデュオを組み、ブラジルが生んだ偉大な作曲家エイトル・ヴィラ=ロボス(Heitor Villa-Lobos 1887 – 1959)の楽曲を現代的に再解釈した『Villa-Lobos Popular』を発表したアミルトン・ゴドイ(milton Godoy)ガブリエル・グロッシ(Gabriel Grossi)が、再びデュオを組んだ。彼らの2026年リリースの続編は、『Os Filhos de Villa』つまり“ヴィラの子どもたち”。ブラジル音楽史に輝かしく残る様々な作曲家たちの代表作を取り上げつつ、ヴィラ=ロボスの音楽的遺産を辿って行く。

ブラジルほど、”ジャンルの壁”が存在しない国はほかにそうそうないだろう。彼の国の音楽は、先住民族やアフリカからの移民、ヨーロッパからの移民などの音楽が複雑に混ざり合い、稀に見る独特の進化を遂げてきたことは言うまでもない。西洋音楽の音楽理論では説明の難しい複雑かつ豊かな旋律と和音進行、変幻自在のリズム。数多の音楽の様式はあらゆる場所で混ざり合い、ただひとつの“ブラジル音楽”を形成してきた。この作品はただ聴いて心地よいだけでなく、その幾つにも枝分かれしながら、その枝を時には複雑に交差させ上へ上へと伸びてきた音楽の世界樹の雄大な物語を語る。

(3)「Rapaz de Bem」はジャズの影響を本格的に取り込み、数年後の“ボサノヴァ”誕生の先駆けとなった作曲家ジョニー・アルフ(Johnny Alf, 1929 – 2010)の代表曲で、1953年に作曲されたもの。(2)「Chovendo na Roseira」(ばらに降る雨)と(5)「Garota de Ipanema」(イパネマの娘)を作曲したアントニオ・カルロス・ジョビン(Antonio Carlos Jobim, 1927 – 1994)にも強い影響を与えた曲として知られており、「bossa nova」という単語が初めて登場したことで知られるジョビンの1959年発表の代表曲「Desafinado」との類似点が印象的だ。アミルトン・ゴドイのピアノと、ガブリエル・グロッシのハーモニカによる卓越した演奏は、おそらくブラジル音楽史において最も過小評価されているであろうジョニー・アルフに再び温かなスポットライトを当てるには充分だ。

(3)「Rapaz de Bem」

過小評価といえば、(7)「Bachianinha No. 1」を作曲したギタリストのパウリーニョ・ノゲイラ(Paulinho Nogueira, 1923 – 2003)も特筆すべきだ。彼こそエイトル・ヴィラ=ロボスの音楽的DNAを最も体現した音楽家だろう。ヴィラ=ロボスの『Bachianas Brasileiras』(ブラジル風バッハ)を明確に意識したこの曲では、アミルトン・ゴドイの堅実なバロック調のピアノに乗せて、ブルースを思わせるピッチベンドを随所で披露するガブリエル・グロッシのハーモニカが映える。この音楽的な文化混淆こそ、寛容なブラジル音楽の真髄だ。

(7)「Bachianinha No. 1」

(8)「Batida Diferente」はブラジルのジャズ・ハーモニカの名手、マウリシオ・エイニョルン(Maurício Einhorn)とギタリストのドゥルヴァル・フェレイラ(Durval Ferreira)による名曲。ヴィラ=ロボスから連なり、様々な文化が混淆する土着音楽への敬愛を、ガブリエル・グロッシはクロマチック・ハーモニカという楽器を通して美しく表現する。

アルバムにはほかにエグベルト・ジスモンチ(Egberto Gismonti)の(1)「Loro」、ギンガ(Guinga)の(9)「Choro pro Zé」といったブラジル音楽史を語る上で欠かせない楽曲も収録。ピアノとハーモニカというたった二人の演奏ながら、繊細さと大胆さを兼ね備えた驚くような音楽絵巻を展開する傑作だ。

Amilton Godoy – piano
Gabriel Grossi – harmonica

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