A Foot on the Ground / Sharada Shashidhar
米国ロサンゼルスを拠点に活動するインド系のヴォーカリスト/作曲家/マルチ器楽奏者シャラダ・シャシダール(Sharada Shashidhar)は、現代の西海岸のジャズシーンでも一際異彩を放つ存在だ。スピリチュアルなバンドサウンドを中心とした前作『Soft Echoes』(2023年)からより深化し、エレクトロの比重を増しつつ更なる内面性を志向するような新作『A Foot on the Ground』で、彼女は“何を奏でるか”より、“どのような心で音を生み出すか”を自問自答する。
幼少期からインド古典音楽を学び、ジャズやロサンゼルスの実験音楽シーンを横断してきたシャラダ・シャシダールは、本作で完璧主義への執着を手放すことをテーマに掲げた。
共同プロデューサーのピート・ミン(Pete Min)とともに約2年をかけて制作された楽曲群は、綿密な設計図に従って組み立てられたというよりも、その場で生まれた偶然や直感を丁寧にすくい上げたコラージュのような趣を持つ。
その姿勢はサウンドにも表れている。
スピリチュアル・ジャズ、エレクトロニクス、室内楽、R&B、インド古典音楽の気配が自然に溶け合い、どれかひとつのジャンルへと回収されることはない。歌詞を伴わないヴォーカリーズも多く、声は言葉を伝えるためではなく、ひとつの楽器として空間に溶け込んでいく。
アルバム中でもタイトル曲(6)「One Foot on the Ground」は象徴的な一曲だ。ガーナの木琴バラフォンやポンプ・オルガン、金属板パーカッションといった珍しい楽器を自ら演奏し、静かな響きの中に確かな生命感を宿している。一方、(4)「Reassurance」ではマーク・ジュリアナ(Mark Guiliana)による絶えず揺れ動くドラミングが、穏やかなヴォーカルと緊張感のあるコントラストを生み出し、(7)「Always Returning」では電子音とアートポップ的な感覚がアルバムに新たな色彩を加えている。
タイトルの「A Foot on the Ground」(片足は地面に)という言葉も印象深い。音楽はどこまでも自由に漂いながら、決して現実から遊離することはない。地に足をつけながら未知へ踏み出す——そんな姿勢がアルバム全体を貫いている。
Sharada Shashidhar自身が「聴き返すたびに違う景色が見える作品」を目指したと語るように、一度聴いただけでは全貌は捉えきれない作品だ。旋律よりも音色、リズムよりも呼吸、構造よりも余白に耳を澄ませることで、この作品は少しずつその輪郭を現していく。
Sharada Shashidhar プロフィール
シャラダ・シャシダールはロサンゼルスを拠点に活動するヴォーカリスト/作曲家/プロデューサー/マルチインストゥルメンタリスト。父親の影響で幼少時からインド古典音楽に触れ、ジャズを学んでいた兄の影響でジャズに傾倒し、ニューヨークのニュースクールでジャズ・ヴォーカルを学んだ。その旋律感覚や即興性を礎に、ジャズ、エレクトロニック、R&B、アート・ポップ等を横断する独自のサウンドを築いている。
2020年にEP『Rahu』でソロ・デビューし、2024年の『Soft Echoes』でジャズシーンから高い評価を獲得。2026年にはLAのカラーフィールド・レコード(Colorfield Records)より『A Foot on the Ground』を発表し、ヴォーカルに加えてピアノやシンセサイザー、電子楽器なども自ら演奏。静謐な空間性と豊かな即興性、そしてインド音楽の精神性を自然に融合させた音楽は、現代ジャズの枠を越えた表現として注目を集めている。
Sharada Shashidhar – vocals, piano, synthesizers, keyboards, electronic drums, drums, drum machine, gyil, pump organ, metal plates, bass
Patrick Warren – string arrangement (1)
Daphne Chen – violin (1)
Jenny Takamatsu – violin (1)
Leah Katz – viola (1)
Alisha Bauer – cello (1)
Caleb Buchanan – upright bass (2)
Timothy Angulo – drums (2, 3)
Devin Daniels – saxophone (2, 3, 9)
Mark Guiliana – drums (4)
Benny Bock – synthesizers (4, 6, 7, 8)
Caleb Buchanan – bass (5)