グリオの伝統を洗練された極上の非電化楽器群に乗せて歌う、マー・ダンバ新譜『Taabolo Koura』

Mah Damba - Taabolo Koura

マリのグリオ音楽を極上のアコースティック編成で歌う2026年屈指の作品

西アフリカ、マリの伝統的なグリオの家系に生まれたシンガー、マー・ダンバ(Mah Damba)の2026年新作『Taabolo Koura』。「声を中心に据える」という古来からのグリオ1音楽の美学を徹底したアルバムとなっており、アコースティック・ギターやアコーディオン、さらにはンゴニ2、カラバシュ3といった伝統楽器を用いた極上のアコースティック編成に乗る彼女の力強くも温かい歌が強く印象に残る作品だ。

(1)「Denkadi」は、相互理解をテーマにした楽曲。今作はアルバムを通じて共同体を支える倫理や価値観が一貫して描かれており、楽器群の豊かな伴奏とともに、彼女の音楽の世界観への見事な導入として機能している。

(1)「Denkadi」

収録された楽曲群には、グリオの伝統が色濃く表れている。
(2)「Bakary Djan」や(6)「Simbo」では、マリ帝国の始祖とされる13世紀の英雄スンジャタ・ケイタ(Sundiata Keita)以来のマンディンカ族の英雄譚やセグー4の戦士たちの記憶を現代への教訓として語り継ぎ、(3)「Anga Bara」ではサヘル地域5の若者たちに向けて「働き、協力し、共同体を築くこと」の大切さを呼びかける。

また、(4)「Katakale」、(9)「Mougnousso」には、西アフリカで母や祖母から語り継がれてきた諺や寓話が織り込まれ、歴史や知恵を後世へ伝えるグリオ本来の役割が色濃く表れている。さらに(5)「Lemounou」、(8)「Soninko」はソニンケ語6で歌われ、勤勉さと強い共同体意識で知られるソニンケの人々への敬意を捧げている。

このように本作は、歴史、教育、共同体、そして文化的アイデンティティをひとつの作品の中で結び付け、マンディング世界の精神文化を現代へと力強く伝える。

Mah Damba プロフィール

マー・ダンバは1965年、マリの首都バマコ生まれの歌手。本名はマー・シソコ(Mah Sissoko)。西アフリカ・マンディング文化圏で、歴史や系譜、叙事詩を歌い継ぐ伝統的な語り部・音楽家であるグリオの家系に生まれている。

父はバマコ地域のグリオたちを束ねた名高いジェリ・ババ・シソコ(Djeli Baba Sissoko)、叔母はマリを代表する女性グリオ歌手ファンタ・デンバ(Fanta Damba)。幼い頃から父や叔母たちのもとで歌を学び、結婚式や洗礼式など地域社会の儀礼で歌いながら経験を積んだ。その後は、マリを代表する歌手カッセ・マディ・ジャバテ(Kasse Mady Diabaté)のアンサンブルや、グループ「Mandé Foli」でも活動し、伝統的なマンディング音楽の歌い手として実力を磨いていく。

1983年に夫であり名ンゴニ奏者だったママイェ・クヤテ(Mamaye Kouyaté)とともにフランスへ移住。以後はフランスを拠点に活動しながら、在仏マリ人コミュニティにおけるグリオとしての役割を果たす一方、ヨーロッパ各地のフェスティヴァルやコンサートにも出演。ソロ作品に加え、モリ・カンテ(Mory Kanté)、デーモン・アルバーン(Damon Albarn)、マチュー・シェディッド(Matthieu Chedid)らとの共演でも知られる。

その歌声は、マンディング世界の叙事詩や歴史、人生の教訓を伝える深い表現力で高く評価されており、現代におけるマリ伝統音楽を代表する女性グリオ歌手の一人とされる。

Mah Damba – lead vocal
Thierry Fournel – guitar, guembri, bass, calabash
Makan Tounkara dit Badjè Djeli – n’goni, guimba kouyate guitar
Antoine Girard – accordeon
Amadou Daou – calabash
Woridio Kouyate – backing vocals
Assetou Camara – backing vocals

Guests :
Clement Janinet – violon (2)
Bakary Diarra – balafon (3, 7)
Sebastian Quezada – congas (6)

  1. グリオ(griot)…西アフリカの伝統的な歴史、系譜、物語を歌や音楽で口頭伝承する世襲制の音楽家のこと。 ↩︎
  2. ンゴニ(n’goni)…木製またはひょうたん製の共鳴胴に山羊皮を張り、木製のネックがついた西アフリカの伝統的な弦楽器。バンジョーのルーツとされる。 ↩︎
  3. カラバシュ(calabash)…乾燥させた大型のひょうたんから作られた、西アフリカを代表する伝統打楽器。 ↩︎
  4. セグー(Ségou)…マリを流れる大河ニジェール川のほとりに位置する都市。 ↩︎
  5. サヘル(Sahel)…サハラ砂漠南縁部に広がる半乾燥地域。 ↩︎
  6. ソニンケ語(Sooninkanxanne)…西アフリカのマリ、セネガル、モーリタニアなどを中心に居住するソニンケ族の話すマンデ語派の言語。推定話者数は約110万人。 ↩︎
Mah Damba - Taabolo Koura
Follow Música Terra