ガヤトリ・クリシュナン。自然体のままインド古典音楽とR&B/ネオソウルを融合し表現する稀有な才能

Gayathri Krishnan - Never Too Lost, Too Found

Gayathri Krishnan 3作目となるEP『Never Too Lost, Too Found』

米国カリフォルニア州ロサンゼルスを拠点とするシンガーソングライター、ガヤトリ・クリシュナン(Gayathri Krishnan)の3作目となるEP『Never Too Lost, Too Found』がとても良い。彼女は幼少期から南インド古典音楽やバラタナティヤム(インド古典舞踊)を学び、中学・高校では合唱やR&B、そしてバークリー音楽大学では音楽療法を学んだという経歴の持ち主で、その経歴がそのまま音になって表れる。サウンドの表現はR&Bやネオソウルが前面に出るが、時折ガチのカルナータカ音楽が顔を覗かせ、それがほかにはない彼女の独創性となっている。

(1)「Self Esteem」

EPには6曲を収録。いずれも2分強から3分程度とコンパクトながら、アコースティック楽器を中心とした丁寧なアレンジに、柔らかな歌声とカルナータカ音楽特有の旋律や歌い回しが自然に重なっている。

サウンドは聴きやすく、スーッと身体に染み込んでくる類のものだ。インド音楽を取り入れたR&Bという説明ではちょっと違和感がある。彼女にとってカルナータカ音楽は後から付け加えた装飾ではなく、幼い頃から身体に染み込んできた音楽だからだ。

ガヤトリ・クリシュナンにとって、音楽は人生から切り離された行為では決してなかった。それは彼女が初めて世界と出会った言語だった。

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そのことが最もよく伝わってくるのが、EPの最後を飾るタイトル曲(6)「Never Too Lost, Too Found」だろう。この曲には、A.R.ラフマーン(A.R. Rahman)1が映画『Jodhaa Akbar』(2008年, 邦題:ジョーダーとアクバル -帝国に咲く愛の花-)のために手がけた「Khwaja Mere Khwaja」からの影響がある。ガヤトリは、米国で暮らしながら故郷チェンナイに残る両親との関係や、インドとアメリカという二つの文化の間で生きてきた父親の経験をもとに、この曲を書いたという。

(6)「Never Too Lost, Too Found」

(4)「Mother’s Love」も象徴的だ。ガヤトリ・クリシュナンの母親は家庭の中で宗教的な賛歌を聴いていた人物として紹介されている。また彼女自身、ステージに出る前には母親に電話することが習慣になっており、母親から「自分一人で歌っていると思わず、神があなたを通して歌っていると思いなさい」と言われることを明かしている。今作のEP中、もっともインド古典的な歌唱を聴けるのもこの曲だ。

「どこにいるのか」「自分は何者なのか」という感覚は、ディアスポラとして生きる人々にとって決して珍しいものではない。けれどガヤトリは、それを大仰なメッセージとして掲げるのではなく、親密な歌とR&Bのグルーヴの中にそっと置いてみせる。彼女の音楽の魅力は、そうした自然体のなかにある。

  1. A.R.ラフマーン(A.R. Rahman, 1966 – )…インドの作曲家/キーボーディスト/歌手。映画音楽の作曲で知られ、2009年、『スラムドッグ$ミリオネア』でゴールデングローブ賞作曲賞、第81回アカデミー賞で作曲賞、歌曲賞など、多数の賞を受賞した。シングル・アルバムの総売上枚数が3億枚と、アジア人最高を誇る。 ↩︎
Gayathri Krishnan - Never Too Lost, Too Found
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