米国の気鋭ピアノ奏者ジュリアン・ショア、内省的で美しすぎる新作『Where We Started』

Julian Shore - Where We Started

気鋭ピアニスト、ジュリアン・ショア、スピリチュアルな4年ぶり新譜『Where We Started』

米国ロードアイランド州出身の気鋭ピアニスト、ジュリアン・ショア(Julian Shore)の新譜『Where We Started』は、どこか北欧ジャズのような深く内省的な精神性を感じさせる好盤。本作は2016年作『Which Way Now?』以来4年ぶりの3rdアルバムだ。

アルバムは8曲中5曲がジュリアン・ショア自身のオリジナル、3曲がカヴァーだが、その選曲もユニークで面白い。

アルバムのオープニング(1)「I. Preludio」はピアノの美しい三連符のフレーズで始まり、エドワード・ペレス(Edward Perez)による弓弾きのベースやベン・モンダー(Ben Monder)の深みのあるギターが徐々に作用してくる。デイナ・スティーブンス(Dayna Stephens)のサックスも力強く唸り、続く展開を大いに期待させる。
(2)「II. Winds, Currents」、(3)「III. Tunnels, Speed」までは組曲形式となっているが、いずれも美しいテーマがあり、卓越した演奏者たちによるアンサンブルと即興の興奮に満ちた素晴らしい演奏が繰り広げられる。

(4)「O Vos Omnes」はイタリアの後期ルネサンス時代の貴族であり作曲家、そしてさらに言ってしまうと、不貞の妻とその愛人を殺害したことで悪名を馳せたことでも知られるカルロ・ジェズアルド(Carlo Gesualdo, 1566年 – 1613年)が旧約聖書の一篇に曲をつけた作品で、合唱曲として今も歌われている楽曲。ここではピアノと空間的なギター、そして2本のサックスのロングトーンで複雑な和音を折り重ねた新解釈を展開している。

(5)「Nemesis」は彼の師であるトロンボーン奏者/教師、ハル・クルック(Hal Crook)によって作曲されたもの。ジュリアン・ショアは高校時代、ハル・クルックの演奏を観るためにプロビデンスのAS220という小さなジャズクラブに毎週通い、学校での疲れと戦いながら、一音も逃さないように演奏に耳を傾けていたという。本作ではデイナ・スティーブンスが吹くウインド・シンセサイザーが大きくフィーチュアされている。

(7)「Oh Bess, Oh Where’s My Bess」はジョージ・ガーシュウィン(George Gershwin)作曲の、映画『ポギーとベス』で知られる曲。

鬼才サックス奏者、オデッド・ツールも1曲で参加

イスラエル出身の鬼才サックス奏者、オデッド・ツール(Oded Tzur)が参加した(8)「Where We Started」は一際異彩を放つ。ドラムもベースもいない、ピアノ/ギター/サックスのトリオ編成で演奏されるこの曲は、エフェクターを駆使し空間を演出するベン・モンダーのギターと、瞑想的なオデッド・ツールのサックスが相互作用し未知の音響空間を形成。絶えずリズムを刻むピアノは推進力となり、終わりの見えない旅へと誘う。フリーインプロという訳でもないようで、ギターとサックスがユニゾンする場面もあるなど魂の交歓とも呼びたくなる凄まじい演奏が繰り広げられる。

(8)「Where We Started」のスタジオ演奏動画。
ピアノ、サックス、ギターのトリオによるエキサイティングな音響的即興。

Julian Shore – piano
Dayna Stephens – tenor saxophone, EWI
Caroline Davis – alto saxophone
Ben Monder – guitar
Edward Perez – bass
Colin Stranahan – drums
Oded Tzur – tenor saxophone (8)

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