4人のシンガーがシコ・ブアルキの名曲群を再構築
ブラジルの音楽についてある程度の知見をお持ちの方なら、シコ・ブアルキ(Chico Buarque, 1944 – )が同国史上最高のシンガーソングライターの一人であるという意見に疑問の余地はないだろう。1960年代から優れた作曲と詩と歌によって音楽の第一線で活躍し、さらに小説家や劇作家としても成功。とりわけ1964年から1985年まで続いたブラジル軍事独裁政権への抵抗の象徴として、近年のブラジルの文化の形成に大きな影響を与えた人物だ。
本稿で紹介するグループ、エスカファンドリスタス(Escafandristas)の4人も、それぞれが幼少期からごく自然にシコ・ブアルキの音楽に触れながら育ってきたという。
ルイーザ・ラセルダ(Luisa Lacerda)は、幼い頃、家族の日常の一部としてシコのレパートリーを聴いて育ち、子供の頃にギターで「Acalanto para Helena」を弾こうとしたことを回想している。アリシ・パッソス(Alice Passos)は、最初に覚えたシコ・ブアルキの歌は「Choro Bandido」だとし、ヘナート・フラザォン(Renato Frazão)は「João e Maria」を挙げ、チアゴ・アムーヂ(Thiago Amud)は「A Banda」を思い出す。
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それぞれがソロ活動でも注目を浴びる新世代の優れた音楽家たちも、このようにシコ・ブアルキから受けた多大な影響に言及している。この4人が、シコの80歳の誕生日を記念し、彼の素晴らしい音楽を創造的な新たなアレンジで歌うために2024年にグループを結成したのも自然な流れなのかもしれない。グループ名はシコのアルバム『Paratodos』(1993年)に収録された名曲(9)「Futuros Amantes」の歌詞に登場する古典的なダイビングスーツを着用した潜水夫(Escafandristas)から借用されている──
そして誰にもわからない、もしかすると
シコ・ブアルキ作「Futuros Amantes」より
リオはいつか
水没した都市になるかもしれない
深海ダイバーたちがやって来て
あなたの家を探索するだろう
あなたの部屋、あなたの持ち物
そしてあなたの魂、その奥深くに隠された場所を
つまるところ、Escafandristas の『Escafandristas Cantam Buarque』は、最高のシコ・ブアルキ・トリビュートだ。
有名な楽曲である冒頭の(1)「Construção」での天才的なシコの詩作は、4人のシンガーが交互に絡み合うように歌う天才的なアレンジによって、鮮血のように忘れられない感傷を残す。原曲の美しさを最大限に残しつつ、より詩的な世界へ誘うような(2)「A Ostra e o Vento」も驚くほど素晴らしい。おそらくはシコ・ブアルキによる最も有名な楽曲のひとつである(10)「O Que Será (Á Flor da Terra)」は、真に“プログレッシヴな”アレンジに驚かされる。
このアルバムでもっとも感慨深い瞬間は、シコ・ブアルキ本人が参加した(3)「A Volta do Malandro」、そしてシコ・ブアルキの娘や孫など家族で構成されたコーラス隊をフィーチュアした(13)「As Minhas Meninas」だろう。こうした世代を巻き込んだ芸術文化の継承は、間違いなくブラジルの文化的成熟の素晴らしい側面だと言える。
当初80曲あった候補曲の中から最終的に15曲に絞られたという今作は、シコ・ブアルキの遺産を受け継ぐ現代世代の音楽家たちによる“ブラジルの記憶”と呼ぶに相応しい作品だ。
アルバムには有名な楽曲と、お世辞にもそうとは言えない楽曲がバランスよく収録されており、現代ブラジルを代表する4人のアーティストたちの、シコ・ブアルキのレガシーを継承しようとする真摯で強い意志が伝わってくる。
ヴィオラォン(ガットギター)の演奏を中心としたシンプルな伴奏によって映える4人の声。シコ・ブアルキ特有の歌詞の対話性や物語性を捉えつつ再解釈されたそれぞれの声の分担や、リズムや和声のアレンジなど、どこまでも深掘りができそうな楽曲群は、ブラジル音楽が秘める高度な芸術性を象徴する。
Escafandristas :
Alice Passos – vocal, flute, guitar, percussion
Luisa Lacerda – vocal, guitar
Renato Frazão – vocal, bass
Thiago Amud – vocal, guitar