NYの新世代ジャズ・トリオ、New Jazz Underground
パンデミックの最中、ニューヨークの公園や街角で演奏する動画をSNSに投稿し、世界中の注目を集め急速にフォロワーを獲得したジャズ・トリオがいる。彼らはニュー・ジャズ・アンダーグラウンド(New Jazz Underground)。このサックス、ベース、ドラムスというコードレス編成のトリオは、全員がジュリアード音楽院の出身で、ジャズの伝統に根差しながらヒップホップやインターネット文化という時代性を武器に、多くの若者たちからの支持を集めた。
その魅力が一過性の話題ではなかったことを証明するのが、初のフルアルバム『Hoodies』だ。
アルバム・タイトルの「Hoodies」は、パーカーに代表されるフード付きの衣類のこと。彼らはこの一語の中に、彼らが暮らし、音楽を育んできたストリートの空気を重ねる。ジャズはスーツを着た演奏家たちによるコンサートホールだけの音楽ではなく、日々の暮らしの中にあるものだという感覚が、この作品には終始流れている。
トリオのメンバーは、サックスの他にヴォーカルも務めるキューバ系のアブディアス・アールメンテロス(Abdias Armenteros)、ほとんどの楽曲を作曲する音楽的な中心人物であるベーシストのセバスチャン・リオス(Sebastian Rios)、そしてドラマーのティージェイ・レディック(TJ Reddick)から成る。
2025年にリリースされたEP『Dying of Thirst』ではピアニストのエリック・ルイス(Eric “ELEW” Lewis)が全面的に参加していたが、今作で彼は1曲((4)「Ghosts」)のみでの参加に留まり、前述したようにほぼ全編がコードレスのトリオ編成となっているのが特徴だ。
そして、この“コードレス・トリオ”という選択は、彼らの音楽に一番合っているように思う。
ピアノなど和音(コード)を鳴らす楽器がない分、特にセバスチャン・リオスのベースは低音から(多くの場合コード楽器によってカヴァーされる)中音までしなやかに縦横無尽に駆け巡り、それがジャズのスリリングな側面をうまく強調している。彼のベースに呼応するようにドラムスは軽やかに跳ね、サックスはその上を自由に舞う。互いの音をよく聴き、反応し合うアンサンブルはとにかく心地よい。
彼らの音楽にはハード・バップの語法もあれば、ヒップホップのビート感もある。ブルースやゴスペル、アフロ・キューバ音楽の気配も感じられる。とはいえ、「いろいろな要素を混ぜました」という印象はほとんどない。それぞれが無理なく溶け合い、最初からひとつの言語だったかのように響いてくる。
その自然さは、彼らがSNS世代だからこそ身につけた感覚なのかもしれない。プレイリストでジャンルを横断して音楽を聴くことが当たり前になった時代に育った彼らにとって、ジャズとヒップホップ、あるいはラテン音楽の間に明確な境界線はないのだろう。そんな価値観が、演奏の端々から伝わってくるのだ。
アルバム後半では、(7)「luci and i (i)」から(11)「I had to let uu go (v)」までが組曲のようにつながり、一枚の作品としての完成度をさらに高めている。前半の開放感とは少し違う、内省的な空気が流れ始め、聴き終えた頃には一つの物語を読み終えたような余韻が残る。時折主役となるアブディアス・アールメンテロスのヴォーカルは、テナーサックスとは違う距離感で言葉を届け、楽曲に人肌の温度を与えている。
『Hoodies』を聴いていると、「新しいジャズ」を無理に目指そうとする気負いは感じられない。彼らはただ、自分たちが生きる街の空気を、そのままジャズとして鳴らしているだけなのだ。その結果として、伝統も現代性も、ごく自然に同じ場所へ着地している。
ジャズは時代ごとに姿を変えながら生き続けてきた音楽だ。『Hoodies』は、その長い流れの先にある現在地を、ごく自然で当たり前のものとして提示してみせる。その肩の力の抜けた佇まいこそが、本作の最大の魅力なのかもしれない。
Abdias Armenteros – tenor saxophone, vocals
Sebastian Rios – double bass
TJ Reddick – drums
Guest :
Eric “ELEW” Lewis – piano (4)