ファド×室内楽の傑作、Bastarda & Joao de Sousa『Fado』
(1)「Livre」を聴いて、「セザリア・エヴォラみたいだな」と思った。
シンガーは実際には男性なのだけど、低音が魅力的なディーヴァのようでもある。
伴奏は控え目だけどパーカッシヴな鉄弦のギターと、クラリネット、コントラバスクラリネットそしてチェロ。
現代音楽寄りのチェンバーアンサンブルには暖かな木の香りがある──
そんな風に思いながら聴いていると、限りなく美しく陰鬱な(2)「Estranha Forma De Vida」の後半で曲調が代わり、聴こえてきたメロディーは、まさしくセザリア・エヴォラの「Sodade」だった。
まるで運命だな、と思う。
こういう不思議な出会い方をした音楽というのは、これまでもそうだったが自分の中で一生の宝物のようになる。
バスタルダ&ジョアン・デ・ソウサ(Bastarda & Joao de Sousa)の『Fado』。
彼らのことは何ひとつ知らなかった。なぜか私はApple Musicでこのアルバムを見つけ、少なからず自分の時間を捧げ、聴きながら冒頭のようなことを考えただけなのだ。
そして今では私の時間の中で彼らの音楽が占める割合はずっと増え続けている。
この作品は今年出会った音楽の中で、もっとも美しいもののひとつであることは間違いない。
バスタルダ(Bastarda)はポーランドの室内楽トリオ。
クラリネットのパヴェウ・シャンブルスキ(Paweł Szamburski)、コントラバス・クラリネットのミハウ・ゴッツィンスキ(Michał Górczyński)、チェロのトマシュ・ポクジヴィンスキ(Tomasz Pokrzywiński)がメンバーで、現代音楽やフリージャズの分野で活躍しているようだ。
ヴォーカルとギターを担当するジョアン・デ・ソウサ(João de Sousa)はポルトガル出身のシンガーソングライター。これまでに4枚ほどのアルバムをリリースしているが、2018年作『Ideal』はソフトロックの傑作の類のように思う。
今作は古典的なファドを室内楽風にアレンジした音楽と捉えられるかもしれないが、そんな範疇に留まらない、というのが繰り返し聴いた感想だ。
はっきり言って、彼らの表現力は並外れている。
João de Sousa – guitar, vocal
Paweł Szamburski – clarinet
Tomasz Pokrzywiński – cello
Michał Górczyński – contrabass clarinet